海軍・海賊


□不必要素子
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錆びれたモーテルに明かりが二つ。
小刻みに点滅を繰り返す照明は余計に埃っぽさを感じさせる。時代遅れのデザインは寝心地の悪さもスプリングのイカれた軋みすら裏切らないベッドだ。それでも通いなれれば愛着と変わってゆく。人間の感情とは不思議なものである。

「俺も悪趣味だな」


錆びれたモーテルに明かりが一つ。
耳障りな音を出す扉を閉めた名無しさんは清潔な匂いを熱気と共にシャワールームから連れてきた。あれほど香料入りは使うなと言い聞かせたにも関わらず。悪びれもなく今日もその肌に髪にヴェールを纏わせる。

「馬鹿女、気分悪りぃ…帰る」
「短気な人」
「教えてやる、女とホテルは比例してんだよ」
「此処は私にピッタリね」

名無しさんは清々しい顔をして部屋を見渡した。指先がドレッサーのひび割れた鏡に触れた。映り込む名無しさんの表情は何故か夢見心地な雰囲気を醸している。

「お前は最高の女だ」

鏡越しの虚像に囁いた。

「返す言葉もないわ、皮肉すぎて」

名無しさんは笑う。
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