海軍・海賊


□Killer Queen
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濃紺に包まれた街が豹変する時
ズクリと神経を逆撫でるのはネオンの輝き
薬が魅せる紙一重のフラッシュバック
一時の快楽か地獄の断末魔か
判断するには些か酷な怪奇事件と化す

俺は此処で生き残れるか…




Killer Queen




月夜を求め導かれるゾンビと化した肉欲が激しく群がる一角。血生臭い吐息を荒く吐き出しては吸い込む深夜の帳の中、煮えたぎる性を剥き出す。涎を垂れ流しさ迷い、撒き散らした蜜を頼りに今宵も特上のラブジュースを生み出すKillerQueen…その目的の為に。




―狂っている

ひび割れた土気色の外観に張り付く植物のツタは血脈の様に複雑化している。建物の窓からは容赦なく攻め立てられた女の肉声が断片的に物語るのは、さながらホラーショーの余興なのだろう。
クザンが懐から取り出した煙草に火を移せば気味悪く擦り寄ってきた捕食者。汚れきった娼婦の眼球を抉ってしまいたい。身体を纏う生地は意味を成していなかった。軽く手であしらうとギトつく唇を尖らせニコチンを奪って別のゾンビに手招きを始めた、一種の催眠術。








「上等なお兄さん、迷子かしら?」

真っ赤なピンヒールが視界に入り俯く顔を上げた。そこに居たのは麻薬で塗り固めたら此の女が出来るだろうと思える程の、まるで肖像のような女が立っていた。裾から気怠げに覗く太股…否、それは正気を失いかけた俺の思い込みだろう。




―試されている

「君が…KillerQueenだね」
「名前聞くなんて野暮なお人」
「なぁ、ホラーショーは好きか?」
「えぇ大好き!とびきり楽しませて」

ホラーショー、KillerQueenに向ける誘い文句で今宵の勝者は俺に降りかかった。

招かれた彼女の館は不気味で毒々しい内装が高揚と恐怖を与える。重く捻るグルーヴと跳ねるバックビートに合わせ、ベッドの上でKillerQueenは下着姿で踊り狂った。冷たいマネキンと絡み合ったと思えば、ガーターベルトから伸びる網タイツを引き裂き真っ赤なピンヒールで床を掻き鳴らし汗と共に拭ったルージュが頬まで広がる。ぐちゃぐちゃの目許を伝い落ちる真っ黒な汗は…美しかった。


何時まで一人楽しむ気だ?

俺は蝋人形じゃない

KillerQueen…

正気じゃいられない!!

こんな館に閉じ込められたら

羽をもがれた天使すら発狂する




「ファンファーレが聞こえるわ!」

彼女は振り乱した長い髪をかき上げ恍惚を愉しむ。全身から滲むラブジュースと麻薬の馨りで鈍痛に狂わせ鋭利に麻痺させる。館に響く爆音は腹の底を押し上げ無意味な生殖マシンをフル稼働して止まない。
跨がる女の腰がうねり暴れた。貪る肉欲に立て続けの危険なエクスタシィ。聖なる寝床を派手に歪め貫くピストンは子宮を破壊する。グラインドした音を悲鳴に変える君は、世紀末のKillerQueen。


溶けてしまいそうな最高のホラーショー
俺は此処で生き残れないだろう…

―end

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