海軍・海賊


□SUPER Cooling
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沈むほどの柔らかいベッドは嫌い。でも跳ね返されるほどの硬いベッドも好きじゃないわ。程よく包んで欲しいのダーリン。



◇◇suprCooling◇◇






寒さに身を縮め外気を取り入れまいとする名無しさんは眠っている時でさえ一切の油断がないな。頭からすっぽり蒲団に隠れ丸まっている。俺だけ先に目覚めたのが少し寂しいと感じてしまった。まるで一人の空間に怯える子供みたいに…

『―ッ、 』




乾燥した部屋は愛おしい彼女の名前すら言わせてくれないのか…。隣にいる確かな存在に気付いて貰えないのは、絶望の中に潜む小さな、小さなしこりが癌となり気付かぬ内に俺を焦らせた。

『…なぁ起きて、早く』

『…ん、なに?どしたの』

背中を揺さぶり声をかければ、もぞもぞと覗かせる目元、寝ぼけ眼で俺を捉える。興味がなさそうな口ぶりで再び、まどろみに行こうと閉じられる瞼は故意なのか。

『俺、今から出掛けてくる』
『…何処に行くの?』
『買い物、名無しさん寝てるし暇だから』
『一緒に行っちゃだめなの?』
『起きないお前が悪いよ』

今度こそ顔を出してくれたが相当ぶすくれている彼女は俺に理不尽を感じているだろう。寝てなさいと頬を撫ぜると腕が伸びてきて捕まれた。寝起き独特の高い体温がじんわりと伝わる。この熱を持ってまだ寒いのか。

『起きるから、連れてって』
『外、寒んむいぞ?』
『大丈夫…沢山着るから、』



君の予告通りの姿に妥協はなかった。珈琲2杯分の時間を俺に与えてくれて名無しさんは支度を済ませた。それでも隠しきれない鼻が真っ赤に染まり寒さで口数もぐっと減っている。これはこれで可愛いのだが、

『危ないから隣来てくんねェかなぁ?』


何故か俺の右手を名無しさんの右手が握り、隠れるように後を歩いている。きっと寒さから少しでも逃れたい一心なのだろう。気をつけていても蹴り上げてしまわないか怖い。しかも歩きにくいだけじゃなく時折ぎくしゃくとペースが合わず君に腕を引っぱられ後ろにのけ反ってしまう。

『せめて抱っこにしないか?』
『面白い冗談ね、それ』
『んな訳ないでしょーが!』

腕を引き上げ腰を支えに胸まで抱き寄せた。嫌嫌、降ろして、馬鹿を繰り返し肩に顔を埋めながら手足が暴れ回るが、まともに歩けないなら降ろす筈がない。名無しさんの体温が溶け込み心地良くて優しく優しく包み込む。

『…恥ずかしッ』
『大丈夫。俺は全然平気だ』
『早く降ろしてよ』
『一人で歩けないだろ?赤ちゃん』




『あの服、名無しさんに似合いそうだな』
『…どんな服』
『自分で見なさいな』
『クザン意地悪よ』
『ノン、ノン!いけない子は君ね』

寒がりな名無しさんは温もりを求める。ベッドに囚われ抜け出せないなら、掻っ攫うのみ。連れ出せば頼れる温もりは俺だけ、広いベッドに縮こまり近付く事すら許されないなら、程よく包ませてハニー。

『クザン貴方すごく冷たい…』
『俺は名無しさんの熱で溶けちまいそうだ』

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