短編

□遠のいた貴方
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オレには兄がいた。

勉強も運動もできて、顔もいい完璧な兄が。

対する弟のオレは、何をやってもダメダメでよく笑われたりした。
だけど、兄さんはそんなオレを庇ったりオレを馬鹿にした相手を叱ったり……



だけど、そんな兄さんがもうオレの前にはいない。



オレが13歳の時、兄さんは急にイタリアへ渡った。
ホントなら並高に行くはずだったのに、なぜか…

母さんはどうやらイタリアへ行くこと自体は知っていたみたいだけど、イタリアに行って兄さんが何をするつもりだったのかは知らないらしい。
オレが悲しみに明け暮れた。


兄さんが教えてくれたからこそ、オレは勉強を頑張れたのに。
……でも、先生役をしてくれた兄さんはいない。


オレは兄さんの背中を追うように、朝昼夜関係なく勉強した。
運動も頑張りたかったけど、昔兄さんに「ツナは運動よりも勉強の方が向いてるかもね」って言われたことがあるから、とりあえず1つの物にだけ熱を向けてみたんだ。


今までの怠惰な生活が嘘のように、睡眠時間を削ってひたすら勉強をするオレを見て母さんは心配したけど…
でも、勉強をするときだけ、兄さんとつながっているような気がしたんだ。兄さんが帰ってきた時「頑張ったな、ツナ」って言ってもらえるように。



勉強をするだけの毎日だったのに、ある日オレの家に家庭教師がやってきた。
「リボーン」と言う名前らしいけど…オレは興味ない。というか、今のオレには家庭教師は必要ないと思う。


そう母さんに言ったら、“勉強をしすぎるツナにストップを掛ける”ことが目的だったらしい。
……兄さんと繋がっている気がする、勉強という行為を邪魔しないで欲しかった。



でも、確かに勉強だけというのは体にわるいというのもわかってる。
渋々…オレは家庭教師という存在を受け入れた。


まさか家庭教師・リボーンが赤ん坊だとは夢にも思っていなかったけど。
まあオレには関係ない。
椅子に座り、勉強をしているオレのすぐ近くでジーッとオレを見つめてくる大きな丸い瞳の視線をガン無視しながら黙々と問題を解いていく。



「……勉強をし始めて、もう3時間だぞ。休憩を入れろ。それにノートと目の間隔がせめえ。」

「ご忠告どーも。」



とりあえず、家庭教師の言うことは最もなので一旦右手に持っているシャーペンを机の上におく。
…ちょっと肩こったかもしれない。



「肩がこったならこれがきくぞ。」

「……」



スッとオレに差し出してきたのは、家庭教師のペット・形状記憶カメレオンのレオンが変身したマッサージ道具。
なぜカメレオンがマッサージ道具に変身することが出来るのかと疑問に思うが、別に質問することでもないので放置。

そして家庭教師様のありがたい好意はうけとっておく。

確かに赤ん坊が家庭教師をしているということに最初は驚いたものの、確かにコイツは頭がいい。
何でも、ボリーン博士という名前で幾つもの賞や難解な数式を説いてきたのだという。にわかには信じられないことだけど、実際にその問題を目の前で解かれちゃ信じる以外の選択肢はない。


先生役をしてくれる奴がいるだけで、今まで中々理解するのに時間がかかった問題も比較的簡単に解けたりするので何だかんだ、オレもこの家庭教師がいてくれてよかったと思っている。
……厄介事を持ち込んで来なければ。



獄寺隼人とかいうダイナマイト野郎とオレを引きあわせたり
山本武という野球部のエースの自殺行為を無理やり引き止めさせられたり
興味もない並中のアイドルこと笹川京子に告白させられそうになったり



なんかもう面倒だ。



「ところで、今日はお前に説明しなきゃいけねえことがある。」

「なに。」

「お前の兄のことだ」

「!」



オレはガタンと音を立てて椅子から立ち上がり、家庭教師に詰め寄る。



「何でお前が拓也兄さんのことをしってんだ!?」

「落ち着けツナ。」

「これが落ち着いていられるか!?早く、早く説明して!兄さんは今何処にいるの!?」



オレの大声を聞いてかけつけた母さんに宥められ、一旦落ち着くことが出来たけど……

母さんが淹れてくれたエスプレッソを優雅に飲んでいる家庭教師をオレは睨みつける。



「どーいうこと。」

「今説明したとおりだぞ。」

「………オレの遠い祖先がイタリアンマフィアのボス?それも、歴代最強だと歌われてる?兄さんがそのマフィアの10代目ボスになってるだって?暗殺者がボスの弟であるオレに向かうかもしれないから、兄さんがお前を日本によこした?」



……信じられない。
でも、心の何処かでコイツのいうことを真に受けている自分がいる。

こいつの言うことは、本当だ。



「…兄さんは、無事?元気にしてるの?」

「ああ、元気だ。今頃上層部の奴らとお話をしているだろーな。」

「……兄さんの力を認めないクソジジイ共の塊だろ、どうせ。」

「その解釈は…ま、間違っちゃいねえ。初代の血統だからって、腐っても東洋人だしな。
 今まで温々とぬるま湯につかっていた奴がいきなり巨大マフィアを継ぐっつったって、反発する奴らが出るに決まってるぞ。」

「ふん」



とりあえず…今は無事ならいい。
それに、嬉しい。

兄さんがオレのことを想っていてくれた。
オレのことを大切にしてくれた。
オレのことを覚えていてくれた。


……今、オレができることは……
兄さんに迷惑をかけないように、過ごすことだけ…か。

今、ボンゴレ10台目の弟は日本にいること以外の情報は出回っていないらしい。
兄さんの苗字が沢田だってことは公表されてるから、コンクールや大会で賞をとって名を売るような行為はもってのほか。


面倒くさい。


つまり、オレは兄さんのお荷物だと…コイツは、上層部の奴らはそう思っているわけだ。
いや…否定はできないよ。
オレはダメダメのダメツナだったんだから。

でも、今は違う。
少なくとも勉強面では。



ああ…兄さんの迷惑をかけないように、力を付けないと。
いつかイタリアにいって兄さんに会えるように頑張らないと。
今いっても、実力的に邪魔になるだけだし兄さんも忙しいだろうから行けない。


兄さん、まってて。


オレ頑張るよ。
獄寺隼人がいう“右腕”とやらのポジションにオレがなる。



人殺し集団になんて入りたくないけど、でも兄さんが頑張ってるのにオレは何もしないだなんて嫌だ。
ボンゴレ10代目の右腕になれるよう、兄さんの隣に立てるように勉強も運動も頑張るから。





遠のいた貴方



10年後、イタリア一のマフィアだったボンゴレはヨーロッパ一のマフィアになっていた。

ボンゴレをそこまで大きくしたボンゴレ・デーチモは東洋人だという。

ボンゴレ・デーチモの側にはいつも、デーチモと同じ髪と瞳の色をもつ東洋人の青年がいたという。


そんな彼らは、常に2人で1人。
生涯共に過ごし、死ぬ時も一緒だった。






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