短編

□嫌々だけれど
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いきなりですけどー、ミーは暗殺者集団“ヴァリアー”という所に拉致されてしまいましたー。
人として最低ですよねー、ホントありえませんー。


というわけで、逃げますー。
これからヴァリアーのボスと白髪ロン毛以外の幹部に会うことになるらしーですが、ミーのしったことではありませんー。


んじゃ、窓から逃げましょうかねー。
……こんなとこも無駄に金かけてやがる、欠片のいち部分だけでも貰ってやろーっと。



ガタンッ



「!」



窓に付いている装飾を剥ぎ取ろうとした時、背後から音が聞こえた。



「……誰ですかー?ミーが気づけなかったってことは、中々の腕ですねー。」

「ん…いや、お前が間抜けなだけでしょ?」

「!」



今度は別の意味でビックリした。
別に、自分に暴言を吐かれたことに対してではない。

いつの間にやら(勝手にヴァリアーが用意した)ミーの部屋に入っていた女性は…今まで見てきたどのメス共よりも美しかったから。
綺麗、可愛い、美しい。
どの言葉を彼女に言っても、足りない。

その気怠げな瞳も、面倒臭気な表情も、夜を全てかき集めたような漆黒の髪も、
……近づきたい。一緒に、いたい。



「……?おーい、どーかしたのかねー。親幹部のフランくんー。」

「ぁ………あ、貴女のなま、えは……」



思わず出たのは、母国のフランス語。その時の自分がどれほど動揺していたのかがよく分かる。
しかし彼女は何てことないような顔でこう返した。



「名前?あたしの名前はイリスだよ。一応このヴァリアーの雲の守護者的ポジションにいんの。よろしくー。」

「雲……」



つまり、彼女は…イリスさんはミーと同じ幹部。…同僚!
なんてことだ、まさかこんな野蛮な奴らしかいないと思っていた場所で、こんな素敵な人と出会えるだなんて!

しかしイリスは次に衝撃的な言葉を発した。



「ま、今ヴァリアーにいるのはただの気まぐれだから、何時か出て行くけど。」

「……そ、んな。」

「何絶望した顔になってんの?…さ、そろそろボスんとこいこー。」



ツカツカと暗殺者らしからぬ音を立ててミーの側に近寄り、腕を掴んで部屋から出させるイリスさん。
これから出会う野蛮集団のボスなんかよりも、ミーはイリスさんが自分の腕を掴んでいることで脳みそが一杯一杯だった。


ボスと何を話したかは覚えていない。

でも、とりあえず給料はめっちゃ高いってことと逃げたら殺すってことくらいしか喋ってなかったような気がするのでスルー。



「これからよろしく、フランくん?」



彼女は、イリスさんは、素敵な無表情のままミーに挨拶した後恐らく自分に部屋に戻った…んだと、思う。
イリスさんの後ろ姿を見て、一瞬「これから先一生会えないかもしれない」と思ってしまったがそれもスルー。

…今日か明日に直ぐイリスさんがココから去る、というのはありえないはずですー。
まあ、これは推測でも何でもないミーの希望なんですけどー。



「……はぁっ」



逃げるはずだったのに。
こんな場所に居座る気はなかったのに。
ししょーに文句を言うために犬兄さん辺りと会おうと思ってたのに。
……全部、パーだ。


これも、全部貴女のせいですよー。イリスさんー。
貴女がここに留まっている内に、ぜーったいにミーは貴女と仲良くなって見せますー。

…え?お付き合い?結婚?
まさかー、そんな恐れ多いー。ミーなんかと、天使なんかよりも美しいイリスさんがお似合いなわけ無いでしょー?


まあ、ただイリスさんを見てるわけでもないですけどー。


下手な男と付き合うくらいだったら………ミーと付き合って欲しいですけど、ねー。






嫌々だけれど




イリスさん、イリスさんー。

……何であたし、親幹部くんになつかれちゃったんだろー。

ししっ、お前外見 だ け はいーからな。

イリスさんは外見だけの女性じゃないですー!ミーとイリスの会話に入らないでくださいー、どっかいけよ堕王子ー、しっしっ

かっちーん。



ドカッ、バキッ、ズガンッ!



……うるさい。






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