短編
□拝啓、路地裏より
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「好きなんだ、君が」
「あ、の……?」
突然の僕からの告白に戸惑っている様子の彼女。
そんなところも可愛いなんて思ってしまう僕は、相当彼女のことが好きなんだろう。
「だから、僕は君のことが、」
「い、いきなりなんですか?やめてください」
怯えた目で僕を見つめる彼女。
その言葉に多少イラっとしてしまい彼女をコンクリートの壁に僕の両手で縫い付ける。
「ひ……っ」
「『やめてください』、なんて酷いとは思わないのかい?僕は君が好きだと言っているのに」
「だ、だから、そんなこと言われても困ります……!離してください!」
うっすらと涙を浮かべながらも抵抗し続ける彼女。
彼女の名前は笹川京子。
並盛中に通う生徒で3月4日生まれの魚座。血液型はO型。身長は156cmで体重45.5kg。
好きなものはベイクドチーズケーキなどといった甘いもの。第三日曜日にだけ自分へのご褒美としてケーキ屋へ行く。
僕はそんな並中のアイドルこと、京子に恋をしてしまったらしい。
気が付けばずっと彼女のことを追っていたし、彼女の情報を集めなんとか僕のものにしようとしていた。
「僕に対して随分と強気だね。そんなところも良いと思うけど、女の子なんだからもう少しおしとやかにしたほうがいいんじゃない?」
「なに、言って……」
「ところで返事は?告白の、へーんーじ」
つらつらと言葉を並べる僕を不安と恐怖が入り混じった瞳で見つめている彼女を気にも止めず、先程の告白の返事を促す。
正直、震える彼女はとってもそそるし、可愛い。
でも僕を受け入れないのは気に入らない。
「だ、から、困ります!第一、私あなたのことなんて」
次の言葉を聞いたとき、僕はどうしようもない気持ちになった。
だって、
「――知りません……!」
なーんて言われてしまったのだ。
どうしていいか分からなくなるのも当然だろう?
そんなはずは、ないのに。
「何を言っているんだい?僕は毎日君を見ていたし、君は僕を見ていただろう?それなのに」
「そんなのっ、知らない!」
知らない知らないって、彼女は何を言っているんだ。
僕が彼女のことを知っているように、彼女だって僕のことを知っているはず、それなのに。
「あなたのことなんて知らないって言ってるじゃないですか!名前も顔も、知りません!」
「僕は君のことを知ってる。名前は笹川京子、並盛中に通ってて、家族は父母兄の4人家族。部活に入ってない。
好きなものはケーキとか甘いもの全般。好きな遊園地のアトラクションは絶叫系。誕生日、身長に体重、趣味や初潮の日だって知っているしスリーサイズも、」
「もうっ!もぅ、やめて……っ、知らない知らない知らない!離して!」
壁を背に座り込んでしまった彼女の手を離し、頭を撫でると「触らないで!」と手を払いのけられてしまった。
「痛いんだけど。……君、そんなに僕にお仕置きされたいの?」
ああ、痛いなぁと呟きながらわざとらしく手をさする。
彼女の頬へと手を滑らせると小さく悲鳴を漏らしながらびくっと体を跳ねさせた。
「僕は君のことが好きなんだ」
「だから、なんとしてでも君を手に入れる」
「そして、これからも君を知り続け、見続けてあげる」
「とっても良いことを思いついた。今は何も知らなくても、これから僕を知っていけばいいんだよ」
「僕はもっともっと君の事を知りたいし」
「――これからよろしくね、京子」
ひんやりと冷たい空気が流れる路地裏で僕と彼女は恋を約束した。
拝啓、路地裏より
(お嫁さんに下さいって報告しにいったら、ボクシング部に入ってる京子のお兄さんに殴られちゃうかな?)
(大丈夫だよ京子。その為に僕も色々格闘術習ってるし、それなりに強いんだ)