短編

□拍手 log
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その三


「…ほら、朝だよ!ヴォル、起きて」

「…んん…」

体を揺すってみるも唸るだけの男にリドルは呆れた様子でため息をついた。

「まったく…これだから年寄りは……あ、おはよう。起きた?」

「…――貴様の先程の発言は聞かなかったことにする。…トムは?」

体を伸ばしながら尋ねたヴォルにリドルは再びため息をついた。

「さぁ…もう食べ終わってるんじゃない?」

「…そうか」


先に部屋を出たリドルにヴォルは欠伸をしながら後に続いた。キッチンに辿り着けば幼いトムが自身の食器を片付けているところだった。

二人を視野に捉えると、トムは特に何もなかったかのように再び動き出した。

そしてすれ違う瞬間、

「……おはよ、」


ぼそりと小さな声で、確かに挨拶をした。

そんなトムにリドルは軽く頭をくしゃくしゃにし、ヴォルは鼻で笑った。

…大人二人の対応にトムは顔を真っ赤にして出て行った。余程癪に触ったのか、バタンバタンと二階にある部屋の扉の開閉の音まで響いてくる。

「…ほんと、君の幼少期はひねくれてるね」

「…何を言っている?お前も俺様の一部でお前の幼少期でもあるのだぞ?」

クスクスと笑いながら朝食を出してきたリドルにヴォルは表情を変えずに料理を口運んだ。


「…まぁでも、まともな返事をしないヴォルの方が数段上にひねくれてるけどね…」

椅子を引いて反対側に座るリドルにヴォルは料理を見ていた。


「フン…それはお前とて同じことだ…?」

ふと、食事の手を止めてリドルを見れば彼は俯いて震えていた。

「残念だったね。僕、起こした時にちゃんと挨拶したよ?」

「!、…チッ」

顔を上げたリドルはいつも以上に笑顔が輝いており、ヴォルは舌打ちを一つしてから再び料理に手を付けようした。

が、
「…リドル…」

「何?」

頬杖を付いて不思議そうに見上げてくるリドルにヴォルは口元を三日月に歪ませた。

「貴様に挨拶を済ませてたなら、何故トムは挨拶をする?」

「それは、」

「俺様に挨拶をしたいから、だろ…俺様だけに、な」

今度こそ、口元に運ばれた料理を食べたヴォルにリドルは不機嫌そうに呟いた。

「…たかが挨拶じゃないか」

「たかが挨拶…なら、その挨拶如きに浮かれないことだな」

「っ!…………君の場合、性格がひねくれ過ぎて拗れまくってるよね。」

ヴォルがただ自慢をしたかっただけでなく、自分をたしなめているのを感じたリドルは言い返しが出来ず皮肉しか出てこなかった。

そのまま机に突っ伏したリドルにヴォルは鼻で笑い食事を口へと運んでいた。が。
身じろぎしたリドルの足がワザとではないがヴォルの足に当たる。

先程のことがあり素直に謝る気が起きなかったリドルは黙って突っ伏していたが、チラリと前を見れば、

「……」

無言で見てくる…いや、睨んでくるヴォル…


「…ごめん、」

謝ったリドルはそれと同時にもう一度ヴォルに足を当てた。言葉通り故意に、だが…。

「貴様っ、」

「何?謝ったじゃないか」
せせら笑うリドルにヴォルは顔を歪ませて睨み付けるも、怒るだけ無駄だと分かっており不機嫌そうにまた一口料理を口に運び始めた。

――勝った!――

リドルがニヤリと唇を歪めた瞬間、

「!、」

「…すまんな…――」

足が当たった…――


リドルと同じように口元を歪めたヴォルは嬉しそうに言葉を繋いだ。そんなヴォルにリドルは笑みを消し去った。
…そして、

「………」
「!…………貴様、」

「ごめん…」

足が当たった…――

リドルは先程よりも更に口を歪めて笑った。



「…すまんな、足がまた当たった。」

「…ごめん、足を当てたくなった。」

「すまんな、足を当てたかった。」

「ごめん、足を当ててしまったよ」

謝罪というなの言葉で罵り合いながら蹴り合う二人に実は初めからいたトムは部屋の外でため息をついて呆れていた。

読めない字があり、訳して貰おうと本を持ってきたのに…――

「まったく…――子どもなのはどっちだ…――」

今だに机の上では冷戦状態の二人にトムはクルリと振り返ると急いで二階へと上がった。自分で訳すとなるとだいぶ時間をさいてしまうのだから…――
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