短編
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その四
虫一匹も鳴いていない新月の夜。蝋燭だけが頼りとなる部屋で少年は口元を歪めながら古ぼけた本の呪文を唱えていく。
光り浮かび上がってきた魔法陣に揺らめいた蝋燭。
目を細めながら見つめる少年の先には先程まではいなかった女性が佇んでいた。
「…我(ワタシ)を喚んだのは貴様アルカ?」
黒い艶やかな髪は双方に団子でまとめられ、白と黒のチャイナ服にさらけ出す脚もニーソで纏う女性は気だるそうに扇子を開いた。
「…あぁ。お前と契約する……ヴォルデモート卿だ。」
「…――まぁ…いいネ。生け贄を出してもらえばそれでいいアル」
女性は興味がないという風に扇子を弄る。
「…何が望みだ、ベルフェゴール」
「分かってるダロ…我の望み…―――」
ベルフェゴールと呼ばれた女性は不適に微笑んだ。
翌日、
一人の少年が急ぎ足で廊下を歩いていた。
「……(クソッ…クソッ)」
「トム〜!」
「…なんだい?メアリー?」
甘い呼び声に無表情から瞬時に笑みを作ったトム。彼女はそれに気が付かずに更に甘い声を出す。
「あのね、授業で分からない所があるんだけど…―――」
「ごめんね」
トムは笑みを更に深めた。嬉しい出来事なはずなのに、メアリーの頬を引きつらせていたのは有無を言わさない威圧感がそこにあった。
「僕は今、忙しいんだ。アブラクサスにでもみてもらって?」
固まったメアリーにトムは振り返ることなく、足を進めた。
そして、
「ベルフェゴールッ!!」
扉が悲鳴を上げる程の勢いで自室のドアを開け、叫ぶように呼んだトムの視線の先には、
「あ〜…―――笹ウメェ…」
自身のベッドで寝転がり、恍惚として笹を加えたパンダだった。
「……何アルカ?」
「…何あるか、じゃないだろ!!いい加減悪魔としての仕事を果たせ!!」
声を張り上げるトムに笹をかじるパンダ、ベルフェゴールは耳を塞ぐ。
「そんなこと言われても、…―――生け贄の対価だからネ…」
「クソッ…――こんなことなら…!」
…――――「…何が望みだ、ベルフェゴール」
「分かってるダロ…我の望み…―――それは、」
「…それは、?」
「…自由労働!!」
…―――
「クソッ…クソッ…!!」
「…仕方がないんだヨ!
このぷりちーぼでぃだと力が押さえつけられてしんどいんだカラ…―――」
「!?、僕のベッドで横になるなと、何度言えば気が済むんだ!!」
ゴロゴロとベッドを転がるパンダにようやくトムはまともにベルフェゴールを見てベッドから引き剥がす。
「イタタタ!!引っ張らないで!引っ張らないでヨ!!耳はダメ!絶対!」
耳を引っ張るトムにキーキーと喚くベルフェゴール…
「…こんな奴となんかと契約すべきではなかった」
一生付き合って行くのかと一瞬でも考える契約者の彼は頭を抱えた。