姉弟

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あたしはいつも一人だった。
誰もあたしの世界の中にいなかった。

たった一人、あたししかいない世界は居心地が良かった訳じゃない。

だからといってそんな世界が寂しいってことでもなかった。

ただ、冷めたような虚無感を感じていた。

だからなのだろう。私以外の誰かがいる、ぬるま湯に浸っているような感覚は。

だけど、嫌いにはなりきれない。

「だぁあああっ!!
いちいちくっつくな!というか、あたしになんか関わんな!」

腰に回してくる手を振り払って距離を取る。

「!、姉さん…」

シュンとなって見上げてくる様に一瞬、耳と尻尾の幻覚が見えてたじろいだがこの弟、トム・マールヴォロ・リドルは油断してはならない。


「あたしにだって一人でいたい時もあんの!
特にトランプで城を作ってる時!」

「あ、ゴメン。あまりにも姉さんが作った奴が本物っぽかったから、潰れないかと思った」

可愛い可愛い我が弟様があたしの努力の結晶をぶち壊した。

「〜〜〜〜〜っ!」
すぐにぶつけてしまいそうになった怒りをこの握り拳一つに抑える。

「あ、ん、た、ねぇええっ!」


「見え透いた嘘ついてんじゃないわよぉお!!」

でも、結局はその怒りを溜めた握り拳を放つ。


「姉さん!鬼ごっこをするんだね!」

ニコニコと嬉しそうに逃げ回る弟に寂しかったのかな、なんて不意に考えてしまったら…
そしたら、怒りなんてどっかに行ってしまった。


「姉さん?」

部屋を出た廊下で立ち止まったあたしに弟は不思議そうに近寄ってくる。

「トム・マールヴォロ・リドル。人はね、独りで生きていくのよ。」

あたしとは全然違う瞳であたしの心理を悟ろうと見つめてくる。


「独りでしか生きられない…――特に、あたしなんかそう…」

独りは、寂しく感じるものなんかじゃない。現に私がそうだから…だからあんたも無理に人と関わらなくてもいい。私なんかに構わなくていい。
そう思う私は自分の意志でそう生きているはずなのに、出た言葉は強いられてるようなものになってしまった。

「わけが、分からない…」

ギュッと抱き付いてきた弟に手を回すも、触れる直前に手が迷ってしまった。
こんなあたしも、訳が分からない。

「僕は、そんなの無理だ。」

更にきつく抱き締めてくる弟にようやく肩に手を置いて、やんわりと体を離す。
そうか、あたしはホントは…

「あたしはそうしないと、生きていけない…」

前の世界では、独りで生きていくしかなかった。だから、この世界でも…――


何故か泣きそうになっている弟を見て、この子だけは…と思ってしまった。

「先に戻ってて、」

ハッと見上げてくる弟が何かを言う前に同じ言葉を続ける。

渋々と部屋に戻った弟に窓に映る変わってしまった自分を見る。

ストレートの黒髪が少し癖のある栗色の髪に、アーモンドの形の黒眼が丸い可愛らしい青色に…

窓とにらめっこをしていると、自然と聴覚が敏感になった。

部屋から漏れてくる子供たちの笑い声や泣き声、様々な騒音が壁一枚に塞がれて遠くに聞こえる。
だから、

余計にあたしがいる場所は静かで、自分は別の場所にいるんだということを錯覚してしまいそうになる。

もう一度、はっきりと窓に映る自分を見る。


この世界に生まれ変わってしまった自分は若干タレ目のせいか悲しそうな顔をしてるんだなと客観的に思えてしまった。

なら、前のあたしはどんな顔をしていたのか?
誰かに声をかけられるまであたしはあたしをじっと見つめその答えを探しだそうとしていた。












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