姉弟
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「…あぁ、なるほどね」
姉さんは、僕の握り拳を見つめて分かったように呟いた。
「…まぁ、頑張って探しなさい。あたしは用事があるから」
そして興味が無いとでも言うように立ち去って行った。
その日の午後は何をすることもなく詰まらないから読書をしていた。そして、とうとう姉さんは帰って来なかった。
そんな一日で終わると思っていたのに、
「…おい、お前の玩具を見つけてやったぞ!」
またあの男が意地悪そうに笑いながら話しかけてきた。
何か裏を感じたけど、
「…どこにあるの?」
取り敢えず、僕の玩具を返して欲しくて「こっちだ」って言う声に従った。
ついて行った先には、
「物置部屋?」
この部屋は色んな玩具を片付けているけど、
「ここはもう探したよ。」
「…良く探したか?」
…多分、と答えながら物置部屋のドアを開け、中に入ろうとする。
「!!」
すると突然両側から勢いよく襲いかかってきた何かが僕の腕の自由を奪う。
いきなりの出来事に固まっていると、今度は足を縛られた。事態を把握してようやく睨み上げた先には二人、年上の奴らがニタニタと笑っていた。
「…――僕の、蛇は…」
「黙ってろよ!!化け物!」
連れてきた男が僕の鳩尾に蹴りを入れてきた。思わず声が漏れ、更に二人が蹴ったり殴ったりの加勢をしてくる。
そして、
「おい!いくぞ!」
嬉しそうに声を上げた男が手を振り下ろし、
「!、まっ…―――」
僕の蛇の玩具が音を立てて壊れてしまった。
誰も助けない…
誰も理解しない…
止まない暴行の中、僕はドアを見つめた。
…―――ドアは開いているのに、
僕は出ない…
…―――不思議な力は使えるのに、
僕は使わない…
僕は…――
僕は何で、何もしない?
僕は何で、ココにいる?
「何、やってんの?」
凛と透き通った声に部屋の空気が一瞬で凍り付いた。
「!」
何で、何で来たんだよ…
「!、お前ッ…何で、出掛けてたハズだ!」
「煩い。あんたは黙ってて。ねぇあんた等質問に答えてないわ。何やってんの?って聞いてんの」
僕が嫌いなら無視をして通り過ぎれば良いのに、相手はお構いなしに三人に詰め寄る。
「!?う、うるせー!
お前はコイツを庇うのか!?一体何なんだよ!」
普段から大人しい性格のアリスがこの時は一言一言を強く発音し怒りを露わにしていた。そして三人のうちの一人が脅えながらもトムの聞きたかったことを聞く。
「あ?理由?」
面倒くさそうに声を上げるアリスに対し、トムは顔を上げてアリスを見る。
「そんなもん簡単よ。
あたしはコイツの姉だからよ。それ以外に理由がある?」
言い切った彼女は僕を守るように立っている。
確かに僕を嫌っていた人物なのに…――本当に?
本当に、この人は僕を嫌って?
「早く出て行かないとその目ン玉ほじくり返して、その眼球をクシャリって踏み潰した音を聴いたその耳から脳味噌を引きずり出してやるけど?」
一瞬固まった後、三人組が慌てて逃げて行き静寂が訪れた。
「!、何して…!」
が、アリスがトムを起こしたところで途切れてしまった。
「手当よ手当。」
「…――ねぇ…お前は本当に…その、僕の…――」
「姉よ。」
「!、じゃあ何で教えなかった!」
「面倒くさかったからよ。」
「…――――」
「何?今度は黙って、」
テキパキと手を動かし淡泊に答える。
その瞳はどこか…――
「…姉、さん?」
言い慣れない単語をゆっくり言えば姉さんはピクッと小さく跳ね、動きが止まった。
「姉さん…」
流暢に言い直せば止まっていた手を動かし始めた。
「、ねぇ「煩い」!」
ギュッと頬を抓った姉さんは立ち上がると僕をおんぶし僕をこの暗い部屋から救い出して、ゆっくりと歩き始めた。
「ちょっと。あたしはあんたを背負ってんだから、これ持って」
手渡されたのは新しい蛇の玩具…―――
まさか、出掛けた理由って…!
「姉さん、」
「煩い」
…――僕に冷たいこの態度も、
「姉さん、」
「黙って。口…縫い付けるわよ?」
照れているだけだとしたら…――――
きっと、
その心にあるのは嫌悪なんかじゃなくて、
…――愛情だと思う。
絶対そうだと確信する僕は、おぶられていて姉さんの表情はよく見えなかった。
でも、きっと姉さんの瞳はさっきと変わらず、
その瞳はどこか…――優しいのだろう…
「大好きだよ。姉さん。」
「黙らっしゃいぃい!というか抱きつくなぁああ!」
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