姉弟
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いつもと同じように…何故か嬉しそうな弟にどうしたのかと尋ねれば、
「…姉さんが助けてくれた時の事を思い出していたんだよ」
いつもと同じ答えを返してくる。
まるで夢見る乙女のようで、あたしはあの時のことを思い出す。
…―――
「…―――出掛けてたんじゃ…―――」
「あんたは黙ってて。」
「姉さん、」
「煩い」
「黙って。」
「口、縫い付けるわよ!」
思い出されたのは、弟への罵詈雑言…
…―――そんな、喜ぶところあったっけ?
う〜ん…頭を捻って考えていると弟がそう言えば、とあたしを見つめてきた。
「僕はそのことを書くけど、姉さんは何を書くか決めた?」
「見てわかるでしょ。」
あたしはそう言って白紙の紙をヒラヒラと見せつける。
「…?、あぁ!姉さんはまだ書いてないんだね。」
「…書いてない、じゃなくて書けないのよ…楽しかったこと、ものなんて…」
全員、そんな課題を与えられて必死に書き込んでいる…だがごく一部の子供はそんなことはせずに外に出て遊んでいた。
どちらも笑顔を浮かべていてあたしはいつの間にか顔をしかめていたらしい…
「姉、さん?」
弟が恐る恐る顔を覗き込むように見つめてくる。
…そんな弟にふと疑問がわいた…
「…――ねぇ、何で[姉さん]って呼ぶの?今更ながらだけど…」
「今更だね!……だって、姉さんは姉さんだから…」
「……?あ、そう…――」
ニコニコと書き尽くした紙を差し出した弟にあたしはそれに目を通し始めた。
「…そう言えばあんた、あたしの名前を知っている?」
「……――」
何も答えない弟に紙から視線を変えれば、気まずく逸らされた。
「…――あたしの名前は…」
「ああぁあっ!聞こえない、聞こえない!」
「…何で拒絶反応をすんのよ。」
耳を塞いで声を張り上げた弟にあたしは耳を塞いで尋ねた。
「姉さんは姉さんだから、名前なんて関係ないっ!」
「はぁ…?
でも、あんたと同じ年よ?」
あたしは弟が何を言っているか全然、理解出来ない…
「!…―――でも!姉さんは姉さんだ!」
「…―――」
…弟ってこんなに話が通じない相手だっけ…
そんなことを思いながら作文に目を通す。
「(……え、と…どこまで読んで、)」
あたしは最後の二文目に目を通す。
…「あたしはコイツの姉よ」
このとき…――僕は初めてこの人が、姉さんだと知った。優しくて守ってくれてた姉さんだと知った。姉さんはずっとこれからも僕の姉さんで、側にいる…それがとても幸せなことだ。
「…あんたねぇ…」
ため息交じりに言って弟を見れば、
「姉さんは姉さんだ。だろう?」
ニコニコと笑っている弟にあたしは複雑な心境になるも、
口元は笑っていた。
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