姉弟

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…分かってる。誰が来たかくらい。
だからこそ顔を上げずに尋ねた。

「…――姉さん…


座っていい?」

ちらりと前を見れば小さな手が着慣れたようにダボダボな袖の裾を握っていた。

「…――――」

「…――――」

黙ったあたしに弟もじっと我慢強く待っていた。

そんな弟に肯定のため息をつけば、嬉しそうに笑う気配がしてベッドがギシッと揺れる。


「…――――」

あたしも、弟も黙ったままで言葉なんて必要なかった、あたし達は沈黙を保って隣同士に座っている。
…それだけで、あたし達は充分だと思えた。

だから、弟も口を噤んでいる。…そう、思ってた。

「…――姉さん、」

「………」

「…僕は、あんなガキ共と混ざって祝うのは…嫌だ」

「………」

「いや、それ以前に他人の誰かに祝ってもらうなんて虫酸が走る。
姉さんもそうだろう?」

「……じゃあ、何であたしのところに来たの?」

「…姉さんにだけ祝ってもらいたかった。」

…――それに、僕たち家族でしょ?


弟に目線を向ければ真っ暗いシーツの向こう側で笑っていた。あたしが見えてないのに、何故かあたしを見て笑っていた。


「祝うなら…僕と姉さんの2人っきりがいい…――

それなら、この最後の年の日だって…好きになれる…」

そう言ってもたれてきた弟はもう笑ってなかったが口元には笑みを湛えていて怪しい表情になっていた。

…弟は生まれてきて数回しかこの日を過ごしていないが、あたしはもう彼の倍ぐらいは過ごしている。

…しかも、嫌なことにあたしの誕生日は弟と生まれてきた日と同じで、12月31日…


「…あんたは、良いわね。あたしは、
今日という日が無くなればいい…と思ってるわ」

…弟の倍ぐらい、あたしはこの日を一人で過ごした…

…誰かが側にいたなんて、

…「母さん!母さんってば!」

「…―――今年は…雪が降らないわね…―――」

「、母さん…―――どうして、窓ばかり見るの…」

…今更、祝う気になんてなれない。


「姉さん、」

「…―――、何?」

声をかけられて、あたしはどこか遠いところから帰ってきた気持ちになって返事をした。


「雪が酷くなった…――」

窓を指差した弟にあたしはシーツをずらして、窓の外を見れば、黒い闇の中を白い小さなものが飛び交っていた。

呆けたように見ていたが、弟が窓際に立ったことであたしは目を見開いた。


「今年は大分積もりそうだ…」

白い息を吐いて窓の外に夢中な弟にあたしもシーツを被ったまま、ベッドから、降りた。



「来年は雪かきが大へ、!!
ね、ね、姉さん!?」

「…――寒いでしょ?」

上擦った声音を出す弟にあたしは後ろからピタリと抱きついていた。


「だ大丈夫だけど…――」

尻すぼみになる弟の耳や項、あたしから見えるすべての肌が真っ赤に染まっていた。

「…ねぇ、あたし、プレゼントもらってばかりだったわよね?」

最近、
ハーモニカとか、ヨーヨーとかを弟がくれるようになった…

「え?」

…でも、それは…


いきなりの質問に驚いた弟は振り返ろうとしたから、あたしは更にギュッと抱きついた。


「…ありがとう。…これがあたしのお礼…

…happybirthday」

…あのガラクタはきっと誰かの物だったに違いない…

いつもなら叱るけど、

でも、あたしは今は責める気にはならなかった。


…特に、今日みたいな日は…――――

激しく降る雪を見て、不意に、胸が締め付けられた。










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