姉弟
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誰もが寝静まる深夜、あたしはベッドを抜け出していつの間にか定置になった廊下の隅から窓の外を見つめていた。
あぁ、今日もまた雪が降ってる…
「姉さん、」
「…―――」
昨日雪かきしたばかりなのに、何で一日でこんなに雪が積もるの?!
あの爺の呪いか?!
「姉さん!」
「、何」
絶対、空想なんかじゃなくて確かに会った爺のことを思い出していると不意に声をかけられ、少し上擦った。
「…―――顔、赤いよ?」
「っ、ほっといてってば!!
というか、何であんたがいるのよ!」
寝てたんじゃないの?と軽く目を見張るあたしに弟は拗ねたようにそっぽを向いて、
「姉さんが…今日もいなくなったから、」
弟は何故か悲しそうに呟いた。
「!、あんた…」
「知ってたよ。姉さんが夜な夜なベッドから抜け出して行くの。」
あたしはあの爺に会ってから、眠れなくなっていた。
何かがあたしの中で変わっていってる…―――
とうとうその疑問に気付いたのはある日の真夜中…
「…―――」
ベッドの上で弟に迷惑をかけないように暗闇の中でずっと固まっているのが苦痛で、あたしは部屋を抜け出した。
そして、廊下に出た時だった。
「!…――――雪、」
暗闇の中を舞う白いそれは、周りに溶け込めていないクセに不思議と違和感を持たせなかった。
寧ろ、あたしは感動していた。
暗い中でも、生きてる。
周りと違っても生きてる。
日の当たる場所じゃわからない、見えないけど、他人を気にしないように雪は降り止まない。
「っ…――うっ、」
溢れる涙に漏れる嗚咽にあたし自身さえワケが分からなかった…
いや、本当は分かっていた。だって何も分からなかったら、こんなにも泣きはしない。
でも、気づきたくなかった。
あたしと雪を重ねた、なんて、…それこそ、あの爺と同じだ、
あたしは…この世界で初めて、声を上げて泣き崩れた。
「姉さん、」
そんな忘れることが出来ない場面を思い返しているあたしを弟は現実へと引き戻した。
「僕は、いつでも姉さんの事を思ってる。
そして姉さんの為だったら何でもする。僕は、あの時、そう決めたんだ。」
俯いて独白をしているかのように話す弟にあたしは胸を締め付けられた。
「姉さんが…――初めて弱音を吐いた時、僕はどうしていいのか、分からなかった。
姉さんが…弱ってる姿なんて、想像すら出来なかったから、」
きっと、あたしが悪夢を見た時だろう…
「だから僕は何も出来なかった!それは姉さんに甘えてただけだからってようやく気付いた!だから僕はっ…―――」
しがみついてきた弟にあたしは驚きで固まっていた。
…弟が、こんなにも…――――成長していたなんて、
「何でもするから…
だから、」
か細く消えてしまいそうな声なのに固まっているあたしの耳にしっかりと入ってくる。
「…消えないで。
突然でも、そうじゃなくても、
…消えるな、姉さん」
力強い口調と強く抱き締めてくる腕…弟の意志の強さを表すそれに、あたしは結局瞬き一つもできなかった。
「僕を残して、消えるな…」
微かに震える弟はあたしの肩にシミを広げていく。動けなくなったあたしはただ一滴、ポロリと頬を伝う雫を感じた。
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