姉弟
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冷めた瞳で彼女を見れば息を詰まらせたように一瞬、一瞬だけ、彼女の瞳に畏怖の色が写った。
「…喧嘩をしたのなら、仲直りをしなさい、」
それだけ言うとMs.コールはさっさと出て行ってしまった。
「…命令口調なんて、好かれるわけないよ、Ms.コール」
この場にいない、正確にはいなくなった彼女に届かないと分かっていても、雑言を吐かざるを得なかった。
無性に腹が立って仕方がなかった。
Ms.コールはあたし達の何を知っているのか…
別に放って置けばいいじゃないか、あたしと弟なんか!
他の人は関係ない。所詮、他人は他人。赤の他人。
関わってこないで欲しい。
それと、
あたしと弟は喧嘩なんて幼稚なことはしない。
喧嘩じゃなければ、何なのか?
あたしだって知らない!
だって、
弟はいつもあたしの側にいて、
こんなに離れてるなんて、ことはなかった。
ぽっかりと胸から何かが抜けたような状態でそんなことを考えながらあたしは布団を被った。
「…!」
しかし、光が遮断された布団の中であたしは気付いた。
あたしは弟と出会う前の世界では一人だったじゃないか…
いつからだろう…弟を気にし始めたのは、
いつからだろう…小さな温もりに依存し始めたのは、
いつから、いつから…―――
多分、弟が生まれた時からだ…彼が弟として存在し始めた瞬間から、あたしは彼に心を動かされた。
まだあたしが再び産まれてきて間もない頃、赤ん坊なのに泣かなかった彼は隣にいるあたしを見ると本当に、嬉しそうに笑った。
そんな目を細めて、笑い声を上げる彼に久しぶりに誰かの純粋な笑顔を見たあたしは戸惑いながらも手を伸ばした。
髪、額、瞼、鼻、口、耳…
あたしは彼の存在を確かめるように彼の顔の至る所を触った。くすぐったいのか彼は嬉しそうな声を上げて体をよじる。あたしは思わず口角を上げていた。
…忘れてた…
古いような懐かしい埋まってた記憶を掘り出したあたしはため息をついて布団から顔を出した。
「…弟と……話さなきゃいけないだろうな…――」
まだ外は明るく、夕食も食べてない。それでもあたしは寝ようとしてる。
勿論、寝れる訳がない。
理由はただ一つ…――
時間帯がおかしいということよりも、
ただ自分から弟に計画的に話しかける、というのが初めてで異様に胸が騒いでいたからだ。
あたしはこの関係のまま弟を放って置けなかった…
多分、あの陳腐な本に影響されたんだと自覚はしてる。
…愛されることを知らない少年と愛することを知らない少女…
この関係だけは崩したいと思ったから。
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