姉弟

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兎を亡くした彼はあれ以来、泣いていない。笑ってもいない。珍しく怒ってもいない。

ただ、魂が抜けたようにぼーっと一日一日を過ごしていた。

まるで、あたしみたいに…


でも一つ、彼とは違う点があった。

それは、

「姉さん!最近、本ばっかり読んでるね」


あたしにはやたらと絡んでくる弟がいて、いつも調子を乱されること。

「……煩いわね、」


完全にハマってしまった[聖騎士物語]から目を放さずに答える。
そんなあたしに弟は笑顔のままで意味を持たない悪態をついた。

「酷いよ、姉さん」


…あたしは、ビリーとは特別に仲が良いわけでもなく、寧ろ彼にからかわれていた。
だけどあたしは彼に対して、無関心だった。


いや、彼以外の誰に対しても無関心だった。今絡んでくる弟を除いては。何をしようがどうでも良かった。

ただ、傷付かないように、あたしは距離をとっていた。

だからだ。

放心状態の彼にあたしは何の感情も思い浮かばないしかける言葉すらない。

たとえ、彼があたしを好きだったとしても…――――


酷い、と弟のようにみんな言うかもしれない。

それでも、あたしは、


「姉さん、考え事してるの?」

いつまで立っても捲られないページに弟は鋭い瞳で此方を見ていた。


「…ねぇ、」

「何?」

「雨、降ってたのね」


今日、初めて本から視線を上げたあたしに自然と外の風景が目に入ってきていた。

「…姉さんって、変なところで抜けてたんだね。いた、」

少々戴けない言葉が聞こえてきたので閉じた本の角で軽く叩いてやった。

「痛いよ、姉さん」

「人生に痛みは付き物よ、弟よ。」

あたしは本を置いてわざわざ部屋を出て、廊下の窓から空を見上げた。

誰もいないこの廊下がいつの間にかあたしの定置になっていた。


「…やっぱり、姉さんはどこか抜けてる。誰も廊下から外を見ないよ。いつかした雨の日のお茶会だって。」
ついて来た弟はそう言いながらもあたしと同じ様に窓の外を見ていた。

「…だから、来たのよ。誰もいないから…雨の日も然り、」

ただでさえいつも外で遊んでいる子が中にいるのだ。
いつもより騒がしい児院にあたしが心休まる場所なんて限られてくる。


「そっか…――」


弟を盗み見れば弟はじっと窓の外の降り止まない雨を見ていた。

自分も外の景色を見ようと前を見ればあたしが映っていた。


子供の笑い声にあたしは酷く疎外感を覚える。でも、それは居心地が良かった。


しかし、弟はそれを感じ取ったのか取らなかったのか、複雑そうな表情だった。
あたしはそんな弟にも疎外感を感じた。

…でも、その疎外感は胸を苦しくさせた。



無表情を繕ったあたしはいつの間にか外じゃなくて弟を見つめていた。













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