姉弟

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「…―――おいっ!」

「…………」

一体、いつから…―――

人がそう考えるのはいつだって何かに後悔してる時だ。

「聞いているのかよ!!」
「!、」

あたしのお腹を容赦なく蹴ってきたのは知らない男の子…―――いや、正確には知ろうともしなかった男の子。

「薄汚いテメーはそうやって地にひれ伏してればいいんだよ!!」

…どうでもいい、か……

「……」

服に隠れた痣だらけの腕を使い、体を起こして彼をみた。

「っ、何だよ、」

なのに不思議と脳裏に思い浮かぶのは、赤い瞳をした弟…―――


「っ!やっぱり、あの悪魔の目と変わん、」

「…あの悪魔って?」


…あの子はあたしが自分なんかを気にしてないと言ったけど、

あたしは、あの子のことを、


「まさか…弟のことじゃないよね」

「っ、やっぱり…お前、おかしいよ。
笑わないし、泣かないし…アイツよりも、おかしい!!」

答えを問うように伸ばした手を名も知らない男の子は払い、何処かへ行ってしまった。


「…あたしがおかしい?」

分かってる。あたしはおかしい。
今だって、透明な雫が頬を伝って無機質な床を濡らしているけど、ここはあたしのいるべき居場所じゃない。

おかしいのは、あたし。

狂ってるのも、あたし。

全部全部、何もかも、あたしが間違いなんだ。

だけどさ、間違いだと言うのなら、
なんで、こんなバショにいるの?

どうして、あたしはこんなトキを生きてるの?

間違っていると言うのなら、何故正してくれないの?

誰か、教えてよ…答えてよ…

「姉さん。何をやってるの?」

いつもは感じない冷たさを含んだ弟の声音に、あたしはすぐ目の前にあった小さな手をすがりつくようにして握った。

「…ねぇ、

あたしは、生きてて、いいのかな、」

「っ、」

そんなあたしに弟は何を思ったのか。顔をしかめるとしがみついていた手を勢いよく振り払った。そしてしゃがみこんであたしの腕を両手で痛いくらいに掴んだ。


「誰に、何を言われたの?」

それは普段、あたしに聞かせないキツい口調だった。弟は怒っていた。

「っ、」
「ねぇ、なんて言われたの?何をされたの?」

だけど、彼の目を見ると、美しい真紅の瞳はまるで焦っているかのように揺らいでいた。


「姉さんは、ココにいて僕と生きるんだ。
だから、答えてよ。誰が姉さんを傷付けたんだ!」

「…知らない、」

「……なら、もういいよ」

突き放した弟は立ち上がると最後にあたしを一瞥し、真一文字の唇を少し緩めたけど、その口から言葉は出ることはなかった。






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