短編
□仮面
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王様になった優しい王子様が主人公のお姫様に向かって甘い言葉を囁く。
お姫様は嬉しそうに頬を染めて王子様に口付けをする。
そんなハッピーエンドでこのお話は幕を閉じた。
「所詮、物語は物語よね…」
こんな優しい王子様みたいな人は絶対いない。
いてほしいとは思うけど…。
読んでいた本を棚に置き周りを見渡せば、全員部屋に帰ってきており、寝静まっていた。
時計を見ればもう、十二時を指している。
読者に熱中して気付かなかった自分自身に思わず苦笑する。
「お風呂、入りに行こうかな…」
…これでも私はグリフィンドールの監督生だ。大浴場へ入れる権利はある。そうと決まれば早速準備をして誰にも見つからないように浴場へと向かった。
「……ふぅ…」
人魚が歌う中、体を洗い終わった私は湯船へと浸かる。程良い温かさに自然とため息が漏れた。
漏れたため息にどうしてもまた、仮面を被った幼なじみを思い出してしまう。
悩めば悩むほど憂鬱になる自分に叱咤して、振り払うように湯船をでて着替える。
髪を乾かしながら自分の部屋へと戻っていると、談話室に誰かいた。
行くときには誰もいなかったことを思い出し、不思議に思って声をかける。
「えっ…と、早く部屋に戻らないと減点になるわよ?」
「クス、君が減点するんじゃないのかい?」
面白そうに笑っていたのは今頭を悩ませている人物、リドルだった。
「!、あなたッ…此処はグリフィンドールよ!?」
出来るだけ小声で話そうと努力をするけど、どうしても声が高くなってしまう。
「落ち着いて、ななし。僕は君に会いに来たんだ」
そんな私とは対照的に彼は笑みを湛えていた。
「…私?」
私は彼に何か約束とかしてたっけ?
首を捻って考えるけど、ピンとくる理由が見当たらない。
「夕方はみんながいて聞けなかったけれど、
君は悩んでただろう?
だから今、その悩みを聞きにきたんだ」
困ったように笑う彼に私は眉を寄せた。
「…いいのよ、別に大したことじゃないから、」
自分の部屋へ帰ろうと女子寮に入ろうとすれば、腕を掴まれてその場で止まってしまった。
「ねぇ…僕じゃ力不足かい?君は頼られることには慣れてるのに頼ることには慣れてないんだね」
また困ったような笑みを浮かべる彼に私はとうとう我慢できずに真っ直ぐ彼を見据えた。
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