短編

□I,m here !
1ページ/1ページ



「驚くって、何に驚けば良いんだい?」


書き写している内容が余程面白いのか上機嫌な彼から質問してきた。


「…なら、私という私は何処にいるのかってことよ」

気付いてる癖にワザと聞いてくる彼に憤りを我慢して尋ねる。




「魂だよ。」

彼は相変わらず、ペンを動かして此方を見ない。

「それがななし自身を証明して、ななしの性質を作り上げる礎だ。」

真面目に答えた彼はペンを止めて考えている。


「…魂、ね。」

確かに、性質を作る元となるし、魂自身が私だ。でも、それって結局…


「見えないじゃない…」


「…はぁ、」

何故か彼がため息をつき、再びペンを動かし始めた。


「ななし、君は僕が好き?愛してる?」

そんな質問をしてきた彼に思わずギョッとしてマジマジと彼を見つめる。

「……リドル、大丈夫?」

「…好きじゃないし、愛してもいないだろ?それだけで他の女とは違う、ななしの性質だ。」

哀れんだ視線を送っていると睨まれて答えられた。

「…でも、それってあなたの本当の性格を知らないからじゃないの?」

そう言えば彼はしかめていた顔を更にしかめた。

「それとこれとは違うよ。そんなどうでも良いことで遮らないでくれる?」

彼の苛々とした表情と声音に私はやれやれと一息ついて、これ以上余計な話はしないことにした。

「ななしだけの性質、またはその組み合わせというものが在る限りそれを形作る何かが必ず在るはずだ。」

「…それが、魂?」


最終確認をすれば、彼は頷いて肯定した。

「そう。それが魂であり、ななしでもあるんだ。」


「私は肉体という器の中にいる、」

…でも、見えないのよね……


「ななし、“ないこと”と“見えないこと”とでは違うよ。魔法と同じ、見えないだけで存在するんだ」

…解ったかい?と確認する彼が不意に愛くるしくなった。


「…優しいのね、リドル」

解らないことがあったらちゃんと作業を止めて丁寧に教えてくれるし、何よりも、私が此処にいるという証明をしてくれた。




「……ななし、大丈夫?」

私を真似したように聞いてくる彼に、

「大丈夫よ」
と、精一杯の虚勢を張った。











.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ