短編

□愛の魔法だと信じてる…
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「選ばれた人間?あたしが?」

驚いて彼を穴が空くくらいに見つめたら男の子は眉をこれでもかってくらいに寄せてそうだと言った。


「そんなわけないわ。あたしは、普通の子よ?特別だとしたらこの子よ!」

否定をして、あたしの手の中にあるお人形の抱き締める力を強めれば男の子がまた驚いた気配がした。

でも次の瞬間、

「クッククク…」

笑いを噛み締めてあたしを見ていた。

「君は可哀想な子だ。此処に連れてきたのは母親だろう?」

あたしのことを君、と呼んで馬鹿にしたような笑みを浮かべた彼にあたしは否定ができず、見つめ続けた。

「捨てられたんだよ。気味が悪いから!」

「…―――でも、また、来るって…―――」

…最後に見つめてきた母さんの瞳が優しかったら、もっと強く言い返せたのに…


「そんなわけないだろ!お前が特別な力を使って虐待してた父親を殺したんだからな!」

「!、」


「君の母親はさぞかしショックを受けただろう!自分が耐えて守ってきたものが化け物だったなんて!」

愉快に話す男の子の表情は何故かあたしと同じくらいの年の子だとは思えなかった。


「でも、傑作なのは君自身が何も気付いてないってことだ!」

声を上げて笑う彼にあたしは、抱き締めていたお人形を改めて見る。
…お人形は優しく、あたしを見つめ返していた。
「…――じゃない…」

「ははっ…――なんて、言った?」

「あたしは…――特別なんかじゃない…」

涙を拭っていた彼にあたしは変わらずにお人形を見つめた。

「この子があたしを愛して、守ってくれた…――」

「あははっ、その玩具が君を好きだって?
君自身じゃなくて、その!玩具が守ってくれたって?」

お腹を抱えて笑う彼にあたしはそうだと言えば、彼は笑うのを止めた。


「だって、沢山のお人形の中で助けてくれたのはこの子だけ…」


「…―――そんなの、偶々力が当たったのがそれだったんだろ」

「じゃあ…――
なんでその偶々がこのお人形にきたの?」

「っ!


なら!玩具が全部動いたらどうなるんだ!」



一瞬、男の子が固まったけど元に戻るとすぐに言い返してきた。


「どう、なっちゃうんだろう?
でも、これだけは言えるよ」

「?」


「愛の力が守ってくれたんだ…―――」






翌日、


「ん〜んんふ〜ふふ…―――」

あたしはお人形と一緒にお茶会を開いていた。…あの後あの男の子はあたしの言葉を聞くと怒ってどっか行っちゃった。
そういえば…名前、聞いてなかった…――

「ねぇ!お人形さん!新聞を読み終わったらで良いからお茶、絶対飲んでね!」

「…――まだ、妄想に取り付かれてる」

「!、あなたは!」

昨日の男の子が扉にもたれてあたし達を見ていた。

「…名前、聞いてなかった」

無愛想に聞いてくる態度にあたしはフンっとそっぽを向いて、答えた。


「ななしよ!あなたは?」


「………

………じゃあね」

「ちょっと!!」

立ち去っていく男の子にあたしは自分だけ言うのは狡いから、彼の名前を聞き出すためにあとを追った。

途端に静まり返った部屋で…

「…………」

とり残された人形は新聞を掴んでいた手を離す。
すると、開いていた窓から風が吹き、新聞を遠くへ飛ばしていった。

だから、帰った時気付かなかった。


あたしの顔とよく似た男の人が亡くなった、という記事なんて……












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