短編

□アナタはあの人を、私はアナタを
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「リリー…」

「!、セブルス!ななし!」

「…―――」

私たち、三人は幼なじみだった。
本当は四人だったけど、一人、魔法が使えずに同じ学校に上がれなかった。

「…元気か?」

「えぇ!元気よ!あなたは?」

「…僕は普通だ」

…とにかく、ふざけたり遊んだり、苦手な勉強だってして、何をするにも私たちは一緒だった。

「そういえば、この間、魔法薬学の先生に褒められたそうね!」

「あ、あぁ…まぁ、たいしたことはないがな」

だからこそ、私は気付いてしまった。
幼なじみの中で唯一の男の子。彼は、明るくて元気で優しい幼なじみに恋をした…

「そんなことはないわよ!すごいわ!」

私はそれが分かった時、その恋が上手く行くよう黙って見守ることに決めた…―――

「…そうか?」

「えぇ!ななしもそう思うでしょ?」

「…………」

彼らの邪魔をしないよう、可愛い幼なじみの妹を連れて時折離れることもあった。

だからだろう…

「…ななし?」

彼と同じ寮に入ったのに、

「、え?…何?」

酷く、疎外感を感じ始めたのは。

…彼女の妹はもういない。

「ぼーっとしてたみたいだけど…大丈夫?」

「大丈夫だよ!」

覗き込んでくるリリーに私は精一杯の笑みを浮かべる。

「…お前の言うことは信じられんな。大人しく医務室へ行ってこい」

「セブルス、ひどいな」

「いいから行け」

背中を押されて一歩、足が進んだ。


振り返れば、心配そうに見つめるリリーと不機嫌そうなセブルス。
そんな二人が似合ってて、思わず固まった。

「リリー!!」

突然、
第三者の声が響いてきたかと思えば、リリーの表情が一変し、セブルスも更に不機嫌そうな顔になる。

「あなたに名前を呼ぶ許可なんてしてないわ!ポッター!!」

振り返っていた私の背後から勢い良く通り過ぎていったポッターに嫌な予感がして前を向いた。


「オイ、待てよジェームズ!…チッ!なんだよ、スルベニスらも一緒かよ」

「シリウス、」

「んだよ!」

「お、落ち着いて、シリウス!」

舌打ちをするブラックに咎めるように名前を呼んだルーピン、そしてオドオドと慌てるペティグリュー。

「フンッ、行くぞ、ななし」

あぁ、

私はこういう時が堪らなく、嫌いだ。

だいっ嫌いだ。


からかうジェームズ達に、

それを咎めるリリーと、

黙って立ち去るセブルス、

…そして、何より今、何も出来ない自分…――

全部、だいっ嫌いだ。


「ななし?」


いつの間にか立ち止まっていた私はセブルスの袖を掴んだ。

「…ごめん、ちょっと…」

しかしそれすらもリリーとセブルスに対していけない事のように感じ私はすぐに手を離した。


「どうかしたのか?」

「……ううん、何でもない。なんでも、ない」


何でもない、何でもないから。
だから、そんな目で私を見ないで。

そう言えたら、どんなに良かったか。
言えない。言えるわけがない。

本当は分かっていた。
この感情は疎外感なんかじゃない。
もっと黒くてドロドロしてて、醜いものだ。

だから、彼は私なんかを見てはいけない。

彼はずっと、綺麗で美しくて、可愛いあの人を見てなければならない。

見てる方向は、変わってはいけない。

「心配しないで、セブルス…」

思ったようにほほに力が入らない。私はきちんと笑えてるだろうか。

「その顔で心配するなと言われて出来るわけがないだろう、」

彼の怒ったようなその表情の裏にみえる優しさに先程までの決心が脆く崩れていくのを感じた。

これ以上近付いちゃいけないと思っているのに、せめてほんのすこし見つめ合ってるこの時間だけはと願ってしまう。

邪な心を見透かされる前に、私は自分から視線を反らす。

「顔色悪いセブルスに言われたくないなぁ」

「僕は元からだ」

軽口で誤魔化して私は彼を通り越した。廊下を吹き抜ける風を感じながら医務室へと目指す。

「お前は……」

モゴモゴと話そうとするセブルスに私はわざと先を急いだ。
その先を聞いてしまうとこの関係が変わってしまいそうで、何かが終わってしまいそうで。

もう少し…このままでいたい、このままの関係でいたい。
アナタはあの人を、私はアナタを…見つめる関係でいさせてほしい。


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