短編

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君を知ったのは入学式で。
君と話し出したのは数年前で。

君に興味を持ったのは、……いつからだったのだろう。

「ななし、」

名前を呼ぶ度に、振り返った笑顔を見る度に、心が跳ねる。

そんな僕に気付かない彼女はまっすぐに僕を見つめる。


「リドル、どうかしたの?」

「別に、」

その美しい瞳に焦りに似た何かを感じて平静を装い視線を外す。

「変なリドル」

僕は、本当に変になったのかもしれない。
今だって目を細めて笑うななしに堅く結ぼうとしていた口が自然と緩んでいくのを感じた。


いつからなんて分からないけれど、この気持ちを抱くのは嫌じゃなかった。

そう、嫌じゃなかったのに。


「実は、この間ね、アブラクサスとお茶会をしたんだけどね……」

嬉しそうに笑うその笑顔も、
綺麗な透き通った声を紡ぎ出すその唇も、

嫌いじゃなかったのに。

「……、リドル?」

何故だろう。
僕以外を見る彼女は壊してしまいたいくらいに、
「嫌いだよ」


「!、いたっ、」

空いている教室にななしを放り込むように押し入れて鍵を閉める。


「リドル、?」

「へぇ、知らなかったなぁ。いつからアブラクサスとそんな仲になったの?」

壁に追い込み、両手を付いてななしを閉じ込めるようにして覗き込む。案の定、彼女は身体を小さく震わし怯えている。
そんな表情を僕がさせていると思うと、魔法を使っている時に感じる快感にも似た興奮を感じる。

「リドル、どうしたの?
私、」

目に涙をため始めるななしに対し、急に冷めた感覚が支配する。

「何か悪いことをしたか? って言いたいのかい?」

ななしは僕の気持ちを理解してない。僕はこんなにも……。
こんなにも、

「……もう、いいよ」

それは自然と出た言葉だった。
僕の彼女に対する感情は気が付かないうちにかなり厄介な物になっていたらしい。
その証拠にななしを泣かせる悦びを感じると共にその涙を拭き取りたいと思ってしまったのだから。

「リドル、大丈夫?」

涙を拭ってしまえば、先程まで怖がっていた彼女の感情が途端に分からなくなってしまった。怯えている訳でもなく、強がっている訳でもない。
まっすぐに僕を見つめている。

「アブラクサスと、仲良くするの、駄目だった?」

教室の鍵を閉めたのは僕なのに、逃げ出したい気持ちに駆られる。

「……私、リドルのこと、他の人よりも知ってるんだと思ってた。
優しいだけじゃなく、ちょっと意地悪な所があることや意外と寂しがり屋だとか。
でも、時々遠くを見るリドルに、違うみたいって最近気が付いた。だから、アブラクサスと少し話したけどさ、分からなかった」

僕だって君が、分からない。

「リドルのこと、分からないよ」

弱々しく笑うななしを抱き締める。僕は、

「僕は、」
自分の感じていることを言うだけなのに、言葉が上手く出てこない。
否、正確には見つかってはいるがその言葉は僕が、認めたくないもの。だから、僕は優しく、甘く彼女の耳元で囁いた。

「僕も、ななしと同じで、ななしが分からないよ」

その答えで、ななしは満足したのか彼女は優しく笑ってなら、と呟いた。

「教えて欲しい。リドルのこと。代わりに私のことを教えてあげるから……」

背中に回ったななしの手に僕はもう少しだけきつく抱き締めた。


「教えてあげるよ。ななしのことを教えてもらえるのなら、」

ななしの視線に合わせて、顔を近付ければ彼女は嬉しそうに笑って目を閉じた。




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