黒子のバスケ

□【勝てねェくらいがちょうどいい】
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練習が終わり、帰宅してベッドに倒れこんだ矢先。携帯が電話の着信を告げる。
手に取るとディスプレイには「犬」の文字。

「黄瀬か…」

ぽいとベッドの上に投げ捨て、私服に着替え始める。
このあとは家族で出かけるから時間がないのだ。
10秒ほどして切れた。

「どーせ、まともな内容じゃないだろ、笠松先輩の声が聞きたくなったんスよーとか。」

自分の後輩であり、恋人がそんなことを言っている場面を想像する。
顔に熱が集まるのがわかった。

「って、なんだよ俺、なに自分の言葉で赤くなってんの…」

軽い自己嫌悪に陥る。

すると、また携帯がなった。
ディスプレイにはまた「犬」の文字。

「あーもー!なんだよ!」

携帯を開き、「もしもし!?」とやや、というにはきつすぎるけんか腰で電話に答える。

「あ、笠松先輩っスか?俺っス〜いとしの黄瀬涼太ちゃんっスよ〜」

また、体育会特有の敬語でしゃべるあいつの声が聞こえた。

「なんのようだ…」

さっきまでの恥ずかしさもあり、ぶっきらぼうな口調になる。

「え〜笠松先輩なんか怒ってるっスか〜?」
「別に。で何のようなんだよ。」
(あーもう。別に怒ってるわけじゃねぇのに!!俺のアホー!)
「ん〜まぁいいっス。
なんとなく笠松先輩の声が聞きたくなっちゃったんで電話しちゃいました。
迷惑だったスか?」

最後は若干の申し訳なさそうなのを含んだ声。申し訳なく思うなら電話をかけてくるなという話だが。
そして予想をあてた自分に軽く賞賛を送る。

「まぁな。出かける前だし。」
「ええっ!それはすいませんっス!!」
「別にいいよ。まだ時間はあるみたいだし。」

嘘だ。黄瀬の声を聞いたらもう少し聞きたくなってしまったのだ。
それを言うと調子に乗るからいわないけれど。

「そうっスか?ならよかったっス!っていうか先輩も俺の声聞きたかったんじゃないんスか〜?」
「〜っ!アホかお前は!」

図星を疲れて一瞬対応が遅れる。それを黄瀬が見逃すはずもなく、

「あれれ〜その慌て具合を見ると図星っスかー?」

などと調子に乗った声でからかってくる。
こうなると、黄瀬は俺に言わせるまでしつこいからな。

(いっそのことさっさといっちまおうか。そうすればびっくりするかも…おし、いっちまえ!)

「そうだよ、図星。俺も黄瀬の声聞きたかった。」

覚悟を決めて告げた言葉は黄瀬には大ダメージだったようで携帯が落ちる音がした。

「黄瀬〜?」
「か、かかか笠松先輩!!いま、なんていったスか!?」

大音量で名前を呼ばれた。そんなに驚くことか?もう少し愛情表現、必要かな…でもちょっと面白い。

「え?黄瀬って。」
「その前!」

切羽詰ったような声で訂正される。
「俺も黄瀬の声聞きたかった?」

「そうそれ!ちょ、今ずきゅんってきたんスけど。今から先輩んちいっちゃ駄目ッスか!?」

電話越しにも黄瀬が動き出そうとしているのがわかる。

「黄瀬うるさい。それに駄目だって。出かける前っていったろ。」
「え〜先輩それ生殺しっスよ〜」

きっと電話越しにクネクネしているんだろう、情けない声を出す。

「知るか。それじゃあ切るぞ。」
「えぇ〜せめて声を!!」

さっきまではこの状態を楽しんでいた俺だけど、ちょっとかわいそうになってきた。

「イヤだ。出かけるんだ。…だからまたあとでな。」
「うぁ〜!先輩最高!愛してる!可愛すぎっ!やっぱり先輩には勝てないっス!」

惜しみない黄瀬からの愛の言葉に顔が赤くなる。

「っ当たり前だろ!後輩は先輩になんて勝てねェくらいがちょうどいいんだよっ!」
そういって照れを隠すように電話を切った。

「ゆき〜行くわよ〜」
「今行く!」

母親の声が聞こえたので反射的に答えた。

しかし、顔のほてりが冷めるまでは、いけそうもなかった。

(ほんと、勝てねェのは俺のほうだよ…)
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