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□Le minuit 〜Blood ver〜 2
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 第一回目の会合期間が始まる。
 主催者である芋虫の口上なぞ誰も聞いてやしない。そもそも、普段から争いの絶えないメンバーがこれでもかと集まっている場所で、落ち着いて他人の話を聞く者など一人もいない。
 「・・・・・・なんだか・・・・・・ものすごく無意味ね・・・・・・」
 隣に座る彼女が小さな声で呟く。
 いつもは水色のエプロンドレスに身を包んでいる彼女は、会合期間中だけ黒い、夜色のドレスを纏っている。
 彼女は本来、こういった落ち着いた色の服を好む。
 我ながらいい見立てをしたものだと、小さく笑った。
 「この世界は無意味なものばかりさ。適当に聞き流せばいい」
 そう言って私は欠伸を噛み殺す。
 今は昼の時間帯。とてもではないが起きていたくない。
 だが、それでは彼女が可哀想な気もする。
 私の腹心は目についた敵対組織の連中を威嚇するのに忙しく、双子の門番達には雑用を押し付けた。それ以外の部下達は、既に夢の世界へ旅立っている。
 だからこそ、私一人が彼女を独り占めできるのだが。
 「なあ、お嬢さん」
 声を潜め、彼女の耳元で囁く。
 彼女は慌てた様に私から離れようとするが、そっと腰に手を回して逃げられないように押さえ込む。
 「・・・二人で抜け出さないか?」
 「なっ・・・!?何を言い出すのよ、何を!!まだ会合は始まったばかりでしょう!?」
 顔を赤く染め、小声で捲くし立てる彼女。
 何処からか煩い白ウサギの声が聞こえてくるが、聞こえないフリをした。
 だが彼女は無視できなかったらしく、そちらを見ようとする。
 それが気に入らなくて、彼女の腰に回していた手で背中を撫で上げる。
 「ひゃっ!!」
 会場はかなり騒がしくなっていたから、彼女が出した声は掻き消えてしまう。
 「ブラッド!!いい加減にしてよっ!」
 微かに瞳を潤ませて彼女が食って掛かって来る。
 「私は退屈なんだよ。お嬢さん」
 「だからって私で遊ばないでっ」
 キッと睨み付けてくる彼女。
 私を睨み付ける女は彼女くらいだろう。そんな彼女だから、私は退屈することも飽きることもない。
 手放したくないと思うほどに、私の中で彼女の存在は大きくなっていた。

 
 彼女をからかっているうちに会合は終わったが、腹心と芋虫がくだらない言い争いをするものだから、その間に彼女は与えられた客室へ向かってしまっていた。
 時間帯はまた昼。
 私は一人で客室に向かう。
 客室に入るなり上着や帽子をとり、ネクタイをはずす。
 窓から入ってくる光が鬱陶しくて乱暴にカーテンを閉め、ベッドの端に腰掛ける。
 ふと、ドアをノックする音に気がついた。
 「なんだ?」
 ドアに向かって声を掛けると控え目にドアが開き、彼女が顔を覗かせた。
 「おや、お嬢さんか。どうかしたのか?」
 「・・・休む前にごめん。さっきナイトメアから茶葉を貰ったの。夜になったらお茶会でもどうかしら?」
 ・・・芋虫め・・・やってくれる。
 「ああ、そうしよう。・・・お嬢さんはこの後は出かけるのか?」
 「?少し休もうかとは思っているけど。どうして?」
 「さっき、敵対組織の男と会っただろう」
 彼女を部屋に送った部下から報告はきている。
 彼女の顔が少し強張った。
 「ああいう輩も多いから、一人で出歩くのは控えなさい。塔の中なら芋虫が手を回すだろうが、外は危険だからね」
 誰であろうと、彼女を傷つけるのは許さない。
 彼女を傷つけていいのは私だけだ。
 「・・・わかったわ。なるべく気をつける。じゃあ、また後で」
 彼女はそう言ってドアを閉めた。
 「なるべく」と彼女は言った。そう簡単にこちらの言うことは聞いてくれないことはわかっていたから、部下達には指示を出してある。
 それに会合期間はまだ始まったばかり。それほどの危険は今のところない筈だ。
 欠伸をしてベッドに横になる。
 夜になれば彼女がやって来る。それまでに少し休んでおくにこしたことはない。
 会合のせいで仕事も詰まり気味だったから、少しの睡眠不足に陥っていた。
 彼女とのお茶会に、そんな状態で臨みたくはなかった。


 
 
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