本棚

□Le minuit 〜Blood ver〜  3
1ページ/3ページ

 くだらない会合は続き、私は彼女を話し相手にして退屈を埋めていた。
 会合が終わり私が腹心と仕事の話をしていると、彼女が一人で何処かへ向かうのが見えた。
 何故か気になり、私は部下を伴わずにその後を追う。
 視界の隅にひらりと夜色のドレスが踊る。
 それを足音を殺し気配を消して、ゆっくりと追った。
 彼女はある部屋のドアを開けて中に入る。
 ・・・・・・面白くない。
 そこは「喋るドアの部屋」だ。
 迷っている者を望む場所へと導くドアがある。
 彼女はドアを開けて何処へ行くつもりなのか・・・。
 私は足早に彼女が消えたドアへと向かい、静かにそれを開ける。
 彼女は迷っているからドアの声が聞こえる。
 きっと彼女は、「開けろ」というドアの声に誘惑されているはずだ。
 その証拠に、彼女は一つのドアに手を掛けようとしていた。
 「こんな所で何をしているんだ?お嬢さん」
 意識して大きな声を出す。
 彼女の体がピクリと揺れた。しばらく間をおいて、彼女が振り返る。
 「・・・・・・ブラッド・・・・・・?」
 どこか焦点の合っていない目。
 それが苛立たしくて、私は彼女に近づくと少し乱暴にその手を取った。
 「こんな面白くもない場所で君は何をしている?・・・そんな暇があるなら、私に付き合ってもらおうか」
 有無を言わせず部屋の外へ連れ出す。
 今の時間帯は夜。
 適当な理由をつけて、そのまま彼女と塔の外へ出る。
 「ブラッド!ねえ、放してよ!」
 いつまでも私が手を放さないことに彼女は戸惑っていた。
 塔を出る間何人もの人間に見られ、今も通りを行き交う通行人が此方を窺っているから仕方ないだろう。
 「こうでもしないと、君はフラフラと迷っていなくなるだろう?」
 立ち止まってそう言うと、彼女は俯いた。
 「まあいい。・・・今は酒を呑みたい気分なんだ。付き合ってくれ」
 掴んでいた手を放しそう言うと彼女は小さく頷いた。
 近くにたまに腹心と寄るバーがあったのでそこに入る。
 従業員も心得たもので、すぐに奥の個室へと案内された。
 「ここ、よく来るの?」
 物珍しげに辺りを見ながら、彼女が尋ねてきた。
 「・・・たまにしか来ないよ」
 彼女に甘いカクテルを、自分にはブランデーを注文する。
 今回は腹心が居ないのでつまみもノーマルなものだ。
 どうやら彼女もそのことにほっとしたらしい。
 お互いに顔を見合わせてクスリと笑った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ