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□ある日の風景
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 寝返りを打った瞬間に走った痛みでアリスは目が覚めた。
 「いった〜・・・」
 腰を押さえながらのろのろと起き上がる。痛む腰に手を当てていると、そこが熱を持っていることに気づく。
 ―――しばらく仕事が休みで良かったわ。
 アリスはゆっくりとベッドから降りると身支度を始めた。
 それを終えると、食事をする為に食堂へ向かう。が、どうにも歩き方が不自然になってしまう。
 「・・・なんか誤解されそう・・・」
 溜息混じりに呟く。
 「あら〜?どうしたんですか?お嬢様〜」
 通りかかったメイドがアリスに声を掛けてくる。
 「どこか痛いんですか〜?」
 心配そうに尋ねる彼女に、アリスは首を横に振って微笑んだ。
 「たいしたことないわ。気にしないで」
 「ダメですよ〜。ボスとは元々の体力が違うんですから〜手加減してもらわないと〜」
 「違うから!そういうことじゃないからっ!!!」
 メイドの言葉を全力で否定するアリス。
 「この前の仕事のときに踏み台から落ちて打っただけだから!!」
 必死に否定したが、メイドは全く信じていない。
 「大丈夫ですよ〜。皆知ってますから〜」
 メイドの言葉にアリスの方が衝撃を受けた。
 ―――皆って使用人からメイドまで皆!?
 呆然としているアリスに「お大事に〜」と声をかけて、彼女は仕事に戻っていく。
 「・・・なんだか・・・いたたまれないわ」
 アリスはぽつりと呟いた。

 アリスが食堂でひっそりと食事をしている間に、「お嬢様腰痛でダウン。原因はボス」
との噂が帽子屋屋敷中に広まった。
 あちこちで、
 「やっぱり〜」
 「お嬢様の体力じゃ・・・」
 といった話が小声でなされている。
 そしてそんな噂は屋敷の主であり、ファミリーのボスであるブラッドの耳にも入ってしまう。
 知らないのは純粋なウサギさんだけだった。

 食後、部屋でのんびり本でも読もうと思っていたアリスは、何処からともなく現れたブラッドに捕獲され、彼の自室へ強制連行された。
 「さて・・・お嬢さん」
 アリスをソファに座らせて自らも隣に座ると彼は切り出した。
 「随分な噂が出回っているようだが、どういうことだ?」
 上着と帽子とった、幾分かラフな姿の彼は笑顔で尋ねる。しかし、その目は少しも笑っていない。
 
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