本棚
□本音
1ページ/2ページ
ブラッドの部屋の浴室で温かい湯に浸かり、アリスは今にも眠り込みそうなほど、船を漕いでいた。
そのまま湯に沈みそうなアリスを同じく湯に浸かっていたブラッドが引き上げた。体を拭いてやりネグリジェを着せた後にベッドの上に座らせる。
ベッドに沈み込みそうなアリスを後ろから抱くようにして、濡れた髪を丁寧に拭いていく。
「・・・眠い・・・」
アリスがぽつりと呟いた。
「此処でなら寝てもいいが、もう少し髪が乾くまではこの体勢だぞ」
今横になったら髪が痛むとブラッドは言い、手を動かし続ける。
急に、アリスの手が何かを探すようにベッドの上を彷徨いだした。
「・・・?何を探しているんだ?」
ブラッドが尋ねる。
「あの子、いないの?」
アリスはその問いに答えず、そう問い返してきた。
「・・・あの子・・・?」
ブラッドは手を休めることなく考える。
そして、あることに気づいた。
「・・・君が言うあの子とは、あのクマのぬいぐるみのことか?」
いささか不機嫌な口調になる。
「そう。あの子」
嬉しそうに答えるアリス。
ブラッドの機嫌は益々悪くなる。
前回のサーカスの時にブラッドがダーツの景品で手に入れたクマのぬいぐるみ(特大サイズ)を、アリスは非常に気に入っていた。
ブラッドがいない時はいつも眠るアリスの隣にいるから、ブラッドは気に食わないのだが。
「・・・ここは私の部屋だからな。あれはない」
不機嫌さから、ブラッドの口調は厳しくなる。
アリスが振り返ってブラッドを見上げた。
「どうして怒っているの?」
「怒ってなどいないさ」
アリスの問いにブラッドは素っ気なく答え、アリスに前を向くよう指示する。
「君は随分とあのぬいぐるみがお気に入りのようだな」
ブラッドがそう言うと、アリスはこくんっと頷いた。
「だって、ブラッドが私のために獲ってくれたんだもの」
アリスのその一言に、ブラッドの手が止まる。
「ブラッドのくれた・・・大事な子なの。ブラッドのいない時はあの子が代わりに隣にいてくれるのよ?・・・本当は、ブラッドとずっと一緒にいたいけど・・・」