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□La voix
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アリスが目覚めたとき、珍しくブラッドは部屋にいなかった。
いつもならアリスを抱いて横になり、髪を弄って遊んでいるはずだが仕事でもしているのだろうか。
アリスはそんなことを思いながら、小さく溜息をついた。
「・・・部屋に戻らなきゃ・・・」
そう呟いて体を起こそうとするが、全くといっていいほど体に力が入らない。
何とか上半身を少しだけ起こしてみたがそれ以上は起き上がれず、再びベッドに沈み込む。
(・・・・・・手加減ってものを知らないわけ?あの男は・・・・・・)
心の中でこれでもかと悪態をつく。
そういえば、軽く二、三時間帯はブラッドに付き合わされたような気がする。
最近のブラッドはただの「暇つぶし」以上にアリスを抱きたがる。
面倒ごとは起こさないと言いながら、既に面倒ごとになっているのは気のせいではないだろう。さらに、アリスもブラッドに好意を持ってしまっているから余計に面倒だ。
アリスはいつか元の世界に帰る。
こんな感情は不要だった。
「・・・流される私も私よね・・・」
上掛けを引っ張りあげてアリスは呟く。
確かに顔は好み。それは否定のしようがない。
しかし、それだけで流されているわけではないと思う。
そうでなければ自分がとんでもなく軽い女のように思えてしまう。
「性格は・・・問題外よね」
次に思いついたものは即座に否定する。
あんな性格が好みだなんて、人として終わっている気がする。
「・・・じゃあ、何だろう?」
「何がだ?」
突然かけられた声に驚いて顔を上げると、ブラッドが書類の束を片手に立っていた。
「い、いつの間に・・・」
アリスが驚きながら尋ねると、ブラッドは執務机に近づき書類の束を放り投げながら答えた。
「今さっき戻ったところだ。声をかけようかと思ったが、なにやら面白そうだったからな。そのままにしておいた」
にやりと意地の悪い笑みを浮かべる。
(・・・ムカつく男!)