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□ひとりぼっちの心がここに1つ
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アリスは時計塔の屋上から景色を眺めていた。
 飽きることなくずっと眺めている視線の先には、滞在先である帽子屋屋敷が小さく見えた。
 誰かが階段を上がってくる音がする。
 姿を現したのは、塔に住むユリウスだった。
 「おい。何をしている」
 「・・・景色、眺めてるだけよ」
 ユリウスの問いに、アリスは振り返ることなく答えた。ユリウスが僅かに顔を顰める。
 「こんな景色が、三時間帯もかけて見るものだというのか?何を考えているんだ、お前は」
 ユリウスは溜息を吐いてアリスを見た。しかし、アリスは振り返らない。
 暫くの間、二人は無言のままだった。
 沈黙を破ったのはアリスの方だった。
 「・・・次の時間帯には帰るわ」
 アリスのその言葉に、ユリウスは何かを言おうとして止めた。
 そのまま階段を下りていく。
 アリスは視線を外すことなく、帽子屋屋敷を見つめていた。
 「・・・帰らなくちゃね・・・」
 帰るのは帽子屋屋敷か元の世界か。
 アリスの心は迷い出していた。



 帽子屋屋敷に戻ると、アリスは真っ直ぐに自分の部屋へと向かう。
 食事を摂る気にもならなかった。
 ふと、アリスの足が止まる。
 「・・・おかえり、お嬢さん」
 アリスの部屋のドアに凭れ掛かるようにブラッドが立っていた。
 その瞳からは何の感情も読み取れない。
 「・・・ただいま。何か用事でもあるの?」
 アリスは逃げ出したい気分を押し殺して尋ねる。
 ブラッドは小さく溜息を吐くと、アリスに近づく。
 「食事を・・・随分と摂っていないだろう?具合でも悪いのか?」
 「そういうわけじゃないわ。ちょっと食欲がないだけ」
 ブラッドの言葉に素っ気なく答え、アリスはブラッドの横を通り過ぎようとする。
 だが、ブラッドに腕を掴まれてそれは出来なかった。
 「・・・私のことも避けていたな?」
 ブラッドの口調に冷ややかなものが交じる。
  
 (・・・そっちが本題な訳ね・・・)

 アリスは心の中でそう思う。
 「・・・そんなことはないわ・・・」
 アリスはブラッドを見ることなく答える。
 「たまたま貴方は仕事が詰まってて、私は外へ行っていた。それだけのことよ」
 アリスの腕を掴むブラッドの手に、僅かに力が入った。
 「・・・確かに仕事は詰まり気味だったな・・・。だが、君が来ても支障はなかった」
 ブラッドは淡々と言う。
 アリスは何も言わなかった。
 「・・・来なさい」
 ブラッドはアリスの腕を掴んだまま歩き出す。
 「ちょっと!離してよっ!」
 アリスがそう言っても、ブラッドは彼女の腕を離さない。
 それどころか、引き摺るようにして自分の部屋へと連れて行く。
 自室のドアを開け、アリスを部屋の中に押し込めると鍵を掛ける。
 「何する気よ!?」
 アリスが言うと、ブラッドは冷たく哂って言った。
 「君には、お仕置きが必要だろう?」
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