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□私の帰る場所
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 森から帽子屋屋敷に戻りながら、ブラッドは不機嫌そうにしていた。
 アリスがナイトメアの手を引いて途中まで歩いていたことが、余程気に入らなかったのだろうか。
 今は二人きり。
 家出期間もそれなりに長かったから、二人きりになるのは随分と久しぶりだ。
 アリスはちらちらとブラッドに視線を送るが、ブラッドはそれをことごとく無視していた。
 二人は無言のまま歩き続けた。
 

 
 アリスが屋敷に戻ると、エリオットや双子達、使用人やメイド達が笑顔で出迎えてくれた。
 心配をかけたことが心苦しくなる。
 部下達に囲まれたアリスを置いて、ブラッドはすぐに何処かへと姿を消してしまう。
 アリスはエリオット達と話をした後、ブラッドを探し始めた。
 最初にブラッドの部屋を覗いたが、そこには彼の姿はなかった。
 庭に出てあちこち探してみるが、やはり見つからない。
 アリスは溜息を吐いて庭の噴水の縁に腰掛けた。水音がアリスの心を落ち着かせていく。
 「・・・せっかく帰ってきたのに・・・」
 水面を覗き込めば、今にも泣きそうな自分の顔が映る。
 ふと、アリスの脳裏に美しい薔薇園が思い浮かんだ。
 今はまだ昼の時間帯だから、彼がいる可能性は低い。それでも、一人で落ち着ける場所には違いない。
 アリスは立ち上がると、限られた者しか入ることの出来ない薔薇園を目指した。


 薔薇園に入ると、アリスは中央に聳え立つ大木の下に座り込んだ。
 ちょうど日陰になった其処から、薔薇園を見渡す。
 やはりブラッドの姿はない。それでも、いくらか心細さは和らいだ。
 濃厚な薔薇の香りは、彼の香りといっても過言ではない。
 此処に居ると、ブラッドに抱き締められているような気分になる。
 アリスは膝を抱えて目を閉じた。
 どのくらいそうしていたのか、気付けば時間帯は昼から夜へと変わっていた。
 やはり、ブラッドの姿はない。
 アリスはその場にごろんと横になる。
 部屋に戻る気にはならなかった。
 ジョーカーが居なくなったとはいえ、季節はまだ暫く残る。
 秋の夜に薄着のまま外にいたら風邪をひくことくらいはわかっていたが、それでも此処から動く気にはなれなかった。
 「風邪をひくつもりか?」
 いつの間にやってきたのか、アリスのすぐ傍にブラッドの姿があった。
 アリスはゆっくりと身体を起こす。そんなアリスに、ブラッドは自分の上着を羽織らせた。
 「全く・・・エリオット達が必死になって君を探していたぞ。また家出をしたんじゃないかとな」
 ブラッドはアリスの横に座りながら言った。
 アリスがじっとブラッドを見つめ、そっと彼の頬に触れた。
 「なんだ?」
 ひんやりとしたその手に己の手を重ね、ブラッドが尋ねる。
 「・・・ごめんなさい・・・」
 小さな声でアリスは言った。
 「痛かったでしょう?」
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