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□世は全てこともなし?
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 「・・・え〜と・・・。アリス?」
 ナイトメアが恐る恐るアリスに声を掛ける。
 アリスは返事もせず、出されたココアを飲んでいる。
 ここは冬のクローバーの塔。その領主であるナイトメアの執務室である。
 数時間帯前、ブラッドの悪戯で猫耳と尻尾をつけられて散々遊ばれたアリスは、再びクローバーの塔に家出をしていた。
 帽子屋屋敷を出る際のブラッドとの壮絶なやりとりに、マフィアの構成員である使用人もメイド達も恐怖した。
 あのエリオットと双子達でさえ、間に入ることを拒否したほどだ。
 コートとマフラー、手袋を持って飛び出したので此処にいることはバレている。が、当分は迎えなどこないだろう。
 機嫌がとことん悪いアリスに敵う相手など、そうそういない。
 「・・・あ〜・・・アリス」
 ナイトメアがもう一度呼びかけると、アリスはギロリと彼を睨みつけた。
 「なに?」
 ドスの効いた声が返ってきて、ナイトメアは目を泳がせた。
 「いや・・・その・・・今回はどの位の滞在かな〜なんて・・・」
 「私の気が済むまで」
 ナイトメアの問いに、アリスは即答した。
 「もちろん、タダでお世話になるつもりはないわ。ちゃんと、貴方のお手伝いしてあげる」
 ニッコリと笑うアリスだが、その目は少しも笑っていない。
 
 (逃げたい!!)
 
 ナイトメアは心の中で絶叫した。
 そこへ、新しい書類を持ってグレイが戻ってきた。
 「ああ、アリス。ナイトメア様の見張り役を頼んでしまって悪かったな」
 「いいのよ、気にしないで」
 グレイには普通の笑みを見せるアリス。
 ナイトメアが悲しそうに肩を落とした。
 「酷い・・・。扱いが全く違う」
 いじけ始めたナイトメアの執務机に、新しい書類が積まれていく。
 さすがに気の毒になって、アリスは心の中でナイトメアに詫びる。
 
 (どうしても、貴方には八つ当たりしちゃうのよね。ごめんなさい)

 アリスの心の中を読んだナイトメアが微笑む。
 「ま、たまには帽子屋と離れてみるのも良いかもしれないな」
 ナイトメアはそう言って積み上がった書類に手を伸ばし、内容を確認してサインをしていく。
 「しかし、そんなに辛いことがあったのか?」
 何も知らないグレイの一言に、アリスがむせる。
 ナイトメアには隠しようがないから話してはあるが、グレイには恥ずかしすぎて詳しいことは何も伝えていない。
 彼は純粋にアリスの心配をしているだけなのだ。
 「だ・・・大丈夫・・・。心配しないで」
 アリスはそれだけ言うのがやっとだった。仕方ないのでナイトメアがフォローに入る。
 「気にするな、グレイ。犬も喰わないアレだよ」
 再びアリスがむせる。
 「なんてこと言うのよ!ナイトメア!!」
 「おや。事実だろう?」
 ナイトメアは涼しい顔をして言う。
 「・・・アリス。もう少し男を見る目を養った方が良いんじゃないか?」
 グレイの真面目な一言にナイトメアは大笑いし、アリスは三度むせた。
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