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□Le minuit 〜Blood ver〜 2
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 時間帯が夜になった。
 そっとドアを開けて部屋に入ってくる気配が一つ。
 部屋の前に来た時点で彼女だとわかっていたから、そのまま放置した。
 お茶会をしにきたのだろう。
 けれど、私は彼女をからかってみたくて、寝たフリをしていた。
 テーブルの上に何かを置く音。そして、足音を忍ばせて近づいてくる彼女の気配。
 じっと見つめられているのがわかる。
 彼女は無意識に私を見つめていることが多い。私に誰かを重ねている。それが腹立たしい。
 私だけを見ていればそれでいいのに。
 「・・・私の寝顔を見るのはそんなに楽しいか?お嬢さん」
 声を掛ければ、彼女が慌てたように息を呑む。
 私は目を開けて起き上がった。
 「お・・・起きてるなら返事くらいしてよ!」
 顔を赤くして彼女はベッドから離れる。
 その姿が可愛らしくて、口元が綻んだ。
 こんな感情、今まで感じたことはなかった。
 彼女だけが私を変えていく。
 「目覚めのキスでもしてくれるのかと思ってね」
 「〜〜〜〜っ!このセクハラ男!」
 部屋の明かりをつけて紅茶を淹れる準備をしていた彼女は、そう言って文句を言い始める。
 それほど眠れた感じではないが、目覚めは悪くない。
 彼女とのお茶会。
 それは甘く穏やかだ。
 彼女は街で見つけたという店で買ってきた茶菓子を持ってきていた。
 やはり、こちらの言うことは聞いてくれないらしい。
 これみよがしに溜息をつくと、彼女は慌てて言い繕う。
 「そんなにここから離れた場所じゃないもの。・・・ちょっとだけしか行ってないし」
 窺うように私を見てくる彼女。
 私は小さく笑った。
 「君の性格はよくわかっているさ」
 彼女は自分の後ろに私の部下がいたことに気づいてもいない。何事もなければそれでいい。
 芋虫が持ってきた茶葉は流石に極上品だ。これを彼女と二人で楽しめるのだから、些細な事はどうでもいいと思える。
 「だが・・・そうだな。次からは私を誘ってくれると嬉しいな」
 私の台詞を聞いて彼女は一瞬、何を言われたかわからないようだったが、すぐに反論してきた。
 「だって貴方、昼や夕方に外に出ないじゃない!・・・・・・それに疲れてるでしょう・・・・・・?」
 最後の部分はかなり小さい声になったが、私には聞こえた。
 手を伸ばして彼女の髪を一房掬い、口付ける。
 「君となら、いつだって出掛けるさ」
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