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□Le minuit 〜Blood ver〜 3
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「こんな風に二人でお酒って初めてね」
彼女が言う。
その口調は柔らかく、普段の毒舌はなりを潜めている。
あのドアを開けようとしていたことは一切話題にせず、他愛ない会話をして過ごす。
今は何故か、彼女を甘やかしたい気分だった。
夜の時間帯は長く続いている。
彼女と塔に戻っても時間帯は変わらなかった。
彼女に上着と帽子、ネクタイを預けてソファに座る。
彼女はそれらをクローゼットに仕舞っていく。その足元が少し危ういように見えた。
「お嬢さん」
呼び掛けると彼女がゆっくりと振り返る。
「少し酔っているんじゃないか?」
此処に戻る途中、何度も投げかけた問いをもう一度する。
彼女はそんなことはないと、同じ台詞を返してきた。だが・・・。
「でも・・・・・・少し呑み過ぎたかもしれないわ。気分が良かったから」
彼女がクローゼットの扉を閉める。
その顔が赤く見えるのはアルコールのせいだけだろうか?
彼女はそのまま足早に部屋を出て行った。
私は暫く呆然とし、そして笑ってしまった。
「・・・ははっ。面白いお嬢さんだ」
本当に飽きない子だ。
夜の月のように捉えどころがなく、ころころと形を変える。
だから空から引きずり落として捕らえてみたくなる。
何処までも深い闇の中に堕としてやりたい。
あの夜色のドレスを引き裂いて、月のように白く穢れのない体を自分だけのものにしたくなる。穢して汚してやりたい。
「ああ・・・でも・・・」
彼女は私ではない別の男を見ている。
私と全く同じ外見の男。
忌々しいことに別世界の男だから殺してやることさえ出来ない。
代わりにされるなんて死んでもごめんだ。
けれど、彼女が手に入るならそれでもいいと思ってしまう自分も否定できない。
なんて面倒で、なんて退屈しない・・・。
あんな少女相手に本気になるとは思わなかった。
この私が本気になったんだ。例え始めは代わりだとしても、いつか成り代わってやろう。
彼女を私で満たして、私だけのものに。
二度と迷うことのないように、私という存在に縛り付けてしまおう。