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□Le minuit 〜Alice ver 〜 2
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から、お茶会に遅れることはなかった。
茶葉と茶菓子を持ってブラッドの部屋のドアをノックする。
返事はない。まだ眠っているのだろうか?
少し考えて、そっとドアノブを回すと鍵は掛かっていなかった。
そのまま部屋の中に入る。
テーブルの上に茶葉と茶菓子を置き、そっとベッドに近づく。
そして眠っているブラッドの顔を覗きこんだ。
確かに外見は別れた彼に似ている。
でも、今私の前に居るのは間違いなくブラッドだ。別れた彼とは違う。
ハートの国に来たばかりの頃は、いつもブラッドに彼を重ねていた。しかし時が経つうちに、私は彼の面影を忘れていた。
今の私はブラッドに彼を重ねたりはしていない。
そんなことをぼんやり考えていると、突然、ブラッドに声をかけられた。
「私の寝顔を見るのはそんなに楽しいか?お嬢さん」
びっくりして一瞬、息が止まる。
ブラッドが目を開いて起き上がった。
「お・・・起きてるなら返事くらいしてよ!」
私は恥ずかしさのあまり身を翻す。きっと私の顔は赤くなっているだろう。
背後でブラッドが笑う。
「目覚めのキスでもしてくれるのかと思ってね」
「〜〜〜〜っ!このセクハラ男!」
からかいのネタを自分から提供してしまったことが悔しい。
私は部屋の明かりを点けて紅茶を淹れる準備を始めた。
ブラッドとするお茶会はとても穏やか。
マフィアのボスとお茶を飲んでいるとは思えない。
私は茶菓子に手を伸ばす。
「それはどうしたんだ?」
ブラッドがカップを片手に問うてきた。思わず目が泳ぐ。
ブラッドは大きく溜息をついた。
・・・・・・バレたわよね・・・・・・。
「そんなにここから離れた場所じゃないもの。ちょっとだけしか行ってないし」
つい、ブラッドの方を窺ってしまう。
「君の性格はよくわかっているさ」
そう言ってブラッドは苦笑した。
「だが・・・・・・そうだな。次からは私を誘ってくれると嬉しいな」
ブラッドが言う。
・・・典型的な夜型人間が何を言うか。
「だって貴方、昼や夕方に外なんて出ないじゃない!・・・・・・それに疲れてるんでしょう・・・・・・?」
私は何を慌てているんだろう?最後の一言は小さな声になった。
それでも、近くに居たブラッドには十分聞こえたらしい。
彼は甘い笑顔を浮かべ、私の髪を一房掬うと口付けた。
どくんっと大きく心臓が鳴る。
「君となら、いつだってでかけるさ」
甘く蕩けるような声で、ブラッドはそう言った。
クローバーの塔には不思議な部屋がある。
それが「喋るドアの部屋」。
会合が終わった後、私は一人でそこに向かっていた。
その部屋はドアの森と同じ。迷っている者声を掛けてくるドアが無数にある。
私は何故かその部屋に向かってしまう。
・・・・・・何処へ行きたいというのだろうか?
無数のドアに、
「開けて」
「違う世界に行けるよ」
と囁かれ、だんだんと意識が朦朧としてくる。
手近にあったドアを開けようとした時、後ろから不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「こんな所で何をしているんだ?お嬢さん」
私の体がその声に反応してぴくりと揺れる。
・・・この声は・・・。
「・・・・・・ブラッド・・・・・・?」
振り返るが少し視界がぼやけている。
彼は苛立っているようで、近づいてくると少し乱暴に私の手を取った。