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□Le minuit 〜Alice ver 〜 2
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 「こんな面白くもない場所で君は何をしている?・・・そんな暇があるなら、私に付き合ってもらおうか」
 有無を言わせず、彼は私を部屋の外へ連れ出した。
 そのまま、「酒を呑みたい気分なんだ」と塔の外へ向かう。
 ブラッドの歩調に合わせている私は小走りだ。しかも、周りの人達が興味津々に此方を見てくるから堪ったものではない。
 「ブラッド!ねえ、放してよ!」
 何度目かの抗議の後、やっと彼は立ち止まった。
 「こうでもしないと、君はすぐにフラフラ迷っていなくなるだろう?」
 そう言われて、無性に泣きたくなった。そんな顔を見られたくなくて俯く。
 「まあいい。・・・今は酒を呑みたい気分なんだ。付き合ってくれ」
 私は小さく頷く。 
 繋いでいた手を放された時、寂しく感じたのは私の気のせいだろうか。


 ブラッドが私を案内したのは小さなバー。
 エリオットと来たことがあるという。
 通された奥の個室は趣味も良い。
 「ここ、よく来るの?」
 尋ねるとブラッドは首を横に振る。
 「たまにしか来ないよ」
 ・・・やっぱり、エリオットと一緒だから来たくないのかしら?
 ブラッドは従業員にカクテルとブランデーを注文する。
 エリオットがいないおかげで、おつまみも至ってノーマル。・・・安心した。
 どうやらブラッドも同じことを考えていたらしい。
 ふと目があって、お互いに小さく笑った。
 「こんな風に二人でお酒って初めてね」
 なんだか照れくさくて、私はカクテルに口をつける。
 私を見るブラッドの目はとても優しい。なんだか甘やかされている気がした。


 塔を出た時の時間帯も夜だったが、塔に戻っても時間帯は夜のままだった。
 私はブラッドの部屋で彼から預かった上着や帽子、ネクタイをクローゼットに仕舞っていた。少し足元がフラフラする。
 「お嬢さん」
 ソファに座っていたブラッドが私を呼ぶ。
振り返ると、少し心配そうな目とぶつかった。
 「少し酔っているんじゃないか?」
 それは塔に戻る途中、何度も言われた言葉。
 私はそんなことはないと、やはり何度も言った言葉を返した。
 そう酔ってはいない。
 「でも・・・・・・、少し呑みすぎたかもしれないわ。気分が良かったから」
 パタンっとクローゼットを閉めて、ドアへと向かう。
 アルコールで赤くなった顔がさらに赤くなった気がして、そのまま何も言わずに彼の部屋を出た。
 すぐに隣の自分の部屋に入り鍵を閉め、ズルズルとその場に座り込んだ。
 なんだかものすごく恥ずかしい。
 あんなことを言ったら、まるで私が何かを期待しているようではないか。
 「・・・・・・恋愛なんて、二度としたくないのに・・・・・・」
 もう傷つきたくないと、あんな思いはしたくないと思っていたのに、私はきっとブラッドに捕われ始めている。
 深い夜の闇そのもののような男、ブラッド=デュプレ。
 いつも彼からは濃密な夜の香りがする。
 彼に捕われ深い闇に堕ちたら、きっと私は戻れない―――。









お付き合いありがとうございました。
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