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□ある日の風景
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 「君と最後に夜を共にしたのは十時間帯前なんだが・・・・・・。まさか・・・」
 「浮気なんかしてないからね!!これは踏み台から落ちたときに打っただけよ!」
 アリスはブラッドを睨み付けながら言った。
 「・・・・・・」
 ブラッドは無言でアリスを見つめる。
 「踏み台から落ちたのだって、誰かさんが棚の一番上にあるドアーズが飲みたいって駄々こねたのが原因なんだからねっ!」
 疑いの眼差しをアリスに向けていたブラッドの目が泳ぐ。
 どうやら思い当たる節があるらしい。
 「・・・ああ・・・。そんなこともあった・・・かな?」
 「あったわよ。取るのが面倒だって言ったのに、貴方がどうしてもって駄々こねたじゃない。・・・ああ。そういう意味では貴方のせいかも。ねえ、誰かさん」
 アリスが冷ややかな笑顔をブラッドの向ける。
 ブラッドはふいっと顔を逸らした。
 アリスが前回ブラッドの部屋の掃除に来たとき、ブラッドはいつもの如く「お嬢さんと今すぐお茶がしたい」と我侭を言い出し、しかも茶葉を指定してきたのだ。それがドアーズ。
 ただでさえ高い棚の一番上にある茶葉だったのでアリスは嫌がったが、ブラッドは譲らなかった。
 「あ。そうしたらこれは労災下りるわよね。ちゃんとお給料に上乗せしてね」
 「・・・・・・門番達に影響されているんじゃないか?お嬢さん・・・」
 「煩いわね。とにかく、私は静かに休みたいの。じゃあね」
 アリスは勢い良く立ち上がろうとして、途中で動きを止めた。
 ブラッドが彼女を見ると、必死で痛みを堪えている様子がありありと伝わってきた。
 「・・・だいぶ辛そうだな・・・」
 ブラッドは立ち上がると、中途半端な体勢で固まっているアリスを軽々と抱き上げた。
 「ちょっと!何するのよ!?」
 アリスが痛みに構わず暴れだす。
 「大人しくしていなさい。しばらくは部屋に誰も入れないから、ここで休んでいけばいい」
 「・・・何もしない?」
 「して欲しいというのなら遠慮なくさせてもらうが?」
 「無理。何もしなくていい」
 ブラッドは楽しそうに笑い、アリスを部屋の奥にあるベッドの上に降ろした。
 「欲しいものがあれば言いなさい。・・・新しい本が届いているが、それでも読むか?」
 ブラッドの言葉にアリスの目が輝く。 
「読みたい!貸して」
 ブラッドは頷くと、本棚から一冊の本を取りアリスに渡した。
 そして自分は執務机に向かい、その上にあった書類を手に取ると仕事を始める。
 こうなると、二人はそれぞれ自分の世界に入ってしまう。
 会話もなく、書類にサインをする音と本の頁を捲る音だけが響く。
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