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□ある日の風景
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ブラッドがアリスの髪を優しく撫でる。
「・・・私、起きてからそんに時間経ってないんだけど」
「横になった方が楽だよ」
ブラッドが言う。
アリスは仕方ないと溜息をついた。
お茶を飲み終え、二人はベッドに潜り込む。
宣言した通り、ブラッドはアリスを抱き締めただけで何も仕掛けてこなかった。
「私は抱き枕じゃないのよ?」
少し照れた様子でアリスが言う。
ブラッドは小さく笑った。
「君は抱き心地がいいんだ。おかげでぐっすり眠れる」
本気とも冗談ともつかないことを平然と言い、アリスを抱き締める腕に力を込める。
アリスもブラッドの胸に顔をすり寄せた。
微かに聴こえるブラッドの時計の音。
この音を聴くとアリスは安心する。
気がつくと、ブラッドが寝息を立てていた。
アリスは彼の寝顔を見つめ、そっと微笑んだ。
マフィアのボスであるブラッドとこんな仲になるとは思わなかった。
誰からも愛されないと思っていたアリスの手を、いとも容易く取った男。
アリスは彼を誰よりも愛しいと思う。
けれど、アリスはそれを決して口にしない。
―――言ったら、私が負けたみたいだもの。
そう思いながら欠伸を一つ。
起きてからそれほど経ってはいないが、ブラッドとこうしていると安心して眠くなる。
少しだけと自分に言い聞かせて、アリスは目を閉じた。
うとうとと眠りに引込まれる直前、アリスは小さく囁いた。
「愛してる・・・」
一瞬、眠っているはずのブラッドが息を呑んだような気がしたけれど、アリスはそのまま眠りに落ちていった。