本棚
□欲しいもの
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濃密な薔薇の香りを吸い込み、アリスは目を閉じた。
そよ風に吹かれてさわさわと鳴る木の葉の音が耳に心地よい。
その音が子守唄のように聞こえて、アリスの意識は少しずつ眠りに引込まれていった。
その頃、手持ちの案件を全て処理したブラッドが、アリスを探していた。
通りかかったエリオットにアリスを見なかったか尋ねる。
「アリスならさっき庭で見かけたぜ。奥の方に入っていったけど・・・。ところでブラッド、例の案件だけどさ・・・」
簡単な仕事の話になり、ブラッドはエリオットに幾つか指示を与えた。
そしてエリオットと別れた後、思い立って薔薇園へと足を向けた。
薔薇園はアリスのお気に入りの場所。もしかしたら其処にいるかもしれない。
そう思って薔薇園に足を踏み入れると、中央の大木の下で眠るアリスを見つけた。
「・・・無防備過ぎるな・・・」
そう呟いて苦笑する。
大木の下のアリスにそっと近づきその頬に触れると、いつもよりひんやりとした感触がした。
ブラッドは僅かに顔を顰めると、上着を脱いでそっとアリスに掛けてやった。
そして自分はアリスの横に座る。
そよ風が二人の髪を揺らす。
まるで永遠とも思えるような時間が、不意に終わりを告げる。
空が揺らぎ赤い夕日が現れ、それと共にアリスがゆっくりと目を開く。
「・・・・・・ブラッド?」
自分に掛けられた上着に気づき、その持ち主を呼ぶ。
「おはよう、お嬢さん」
ブラッドはアリスを抱き寄せると頬に軽くキスをした。
「随分と体が冷えているようだが、寒くはないか?」
ブラッドがそう言うのと同時に、アリスが小さくくしゃみをした。
「・・・少し借りててもいい?」
小さな声でアリスが言う。
「ああ、構わない。羽織っていなさい」
二人でそのまま薔薇を眺める。
夕日に照らされた薔薇は、一層赤く輝いている。
しばらくしてアリスが口を開いた。
「・・・何か欲しいものはないかって言ってたわよね・・・」
「・・・何も要らないんじゃなかったのか?」
アリスの髪を梳きながら、ブラッドがからかうように言った。
「本当はね、欲しいものがあるの・・・」
ブラッドの手が止まる。
「・・・何が欲しいんだ?お嬢さん。君が望むのなら何だってあげよう」
アリスがブラッドを見上げ、片手で彼の頬に触れる。
ブラッドを見るその眼差しは、いつになく真剣だ。
「私が欲しいのは・・・ブラッド=デュプレ、貴方だけよ」
今にも消え入りそうな声で囁くと、アリスは顔を真っ赤にして顔を逸らしてしまった。
ブラッドの頬に触れていた手を引こうとして、逆にブラッドに手を掴まれた。
ブラッドは掴んだアリスの手に優しくキスを落とす。
「・・・全く・・・。随分と男殺しな台詞じゃないか」
くつくつと笑うブラッド。
彼のアリスを見る目はとても優しい。
「・・・今だって、私はきみのものだよ?アリス。・・・これからも永遠にね・・・」
ブラッドはそう言うと、アリスの唇に己の唇を重ねた。