宝物

□天使
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雪が降り積もり見渡す限りの白銀の世界に秋は立っていた。
吐く息は白く染まり、寒さが身にしみる。
冬の冷たさが容赦なく身体に負担を掛けているのに、秋は立ち去ろうともせずにずっと立ったままだ。
その理由は雪景色の美しさに目を奪われ夢中になっているからだ。

不意に首元に何かを巻かれ、秋は温もりに包まれる。

「こんなところにいたら風邪ひくよ」

秋が振り向くと、そこには吹雪が立っていた。

「吹雪君、マフラーありがとう」
「どういたしまして。それより早く中に入ろ」

吹雪が家の中に行こうと秋の手を取る。

「待って。あと、もう少しここにいたいの。雪景色が綺麗だから」
「そっか。じゃあ僕も付き合うよ」
「無理しなくてもいいんだよ」

この寒さの中、自分に付き合わせるのは悪いと思い秋はそう言うが、吹雪は笑顔で首を振る。

「無理じゃないよ。だってここにいれば木野さんとくっついていられるし」

吹雪は秋を抱き締めている腕にギュッと軽く力を入れた。

「それより、そんなにいいかな?この景色」

吹雪は日頃と同じ景色に、それ程感動を覚えることはなかった。

「うん、まさに白銀の世界って感じで綺麗だし」
「・・・・・・でも、なにもないよ」

秋は耳に届いた寂しげな声に思わず後ろを振り向く。
そして秋が見たのは吹雪の複雑そうな顔だった。
秋は脳裏にあることがよぎった。

それは吹雪の家族のことだった。
突然この世に一人残された吹雪にとって、この景色はあまり好ましいものではないかもしれない。
しかし事故の後も、ここで暮らしてきた吹雪には全く愛着がないという訳でもないのだろう。
だから複雑な顔をしていると秋は思った。

なにか吹雪を笑わせるようなことはないかと秋は考え、あることを思いついた。

「ね、吹雪君」
「ん?」
「見てて!」

秋は吹雪から離れて雪の上に転がった。

「え、木野さん?」

秋の突然の行動に吹雪は驚く。
秋は雪の上に転がったまま腕と足を揺らす。
しばらくすると秋は立ち上がり、自分の寝転がった場所を見て、よし!と呟く。

「ねぇ、吹雪君。私もスノーエンジェル出来るんだよ」
「へ?」
「ほら、見て」

秋が指差したほうを吹雪が見ると、そこには雪天使がつくられていた。

「さっきはなにもなかったけど、今はあるでしょ?」
「っ!」

秋は驚いたまま何も言わない吹雪に不安になる。
失敗しちゃったかなと顔を下げた瞬間。

「きゃっ!」

秋は吹雪によって雪の上に倒された。

「ふ、吹雪君?」
「本当だね、何もない訳じゃなかった。つらい思い出だけじゃないって気づかされた。ありがとう木野さん」

吹雪の顔に笑みが戻り、秋はホッとする。

「ねぇ、木野さん」
「なに?」
「木野さんがつくってくれた雪天使の前に、僕にはもう天使がついているんだ」
「え、・・・どういうこと?」
「僕にはね、木野秋っていう可愛い天使が既にいたんだよ」

そう囁きながら吹雪は秋の唇にキスを落とすのだった。




END.
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