宝物

□私の魅力
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女子だけの会話。秘密、噂。その他もろもろ公の場では話せないこと。
声を潜めて話す場所。
それはここ女子トイレも主な場所にあがるだろう。

『ねぇ、聞いた?豪炎寺君、彼女が出来たんだって』
『嘘ー!?ちょーショックなんだけど。彼女って誰!?』

外から聞こえてきた会話に秋は鍵を外そうとした手をとめた。

『ほら、サッカー部のマネージャーの木野さんって子』
『マネージャーか・・・まぁ、豪炎寺君に一番近づける女子っていったら、そういうところいる子だよね・・・』
『そうね。でも、なんで木野さんだったのかしら?あまりパッとしないわよね』
『うん。同じマネージャーなら生徒会長の雷門さんに新聞部だった一年生の音無さんって子もいるのにね』
『男子に人気あるものね、あの二人。ほら、雷門さんは今、流行のツンデレ?っていうんだっけ。あと音無さんは前から可愛いって男子が噂してたし』

その後の会話は耳には届かず、休憩時間のチャイムがなるまで、秋はトイレの鍵を開けることが出来なかった。




「の・・・き・・・きの・・・木野!」
「っ!」

秋は自分の名前を強く呼ばれ、ハッと我にかえる。

「あ、えと、なに豪炎寺君」
「なにじゃないだろう。今日はどうしたんだ?一日中ぼーっとして」

豪炎寺が心配な顔で秋を見る。

豪炎寺が心配するのも無理はない。
なぜなら授業中、真面目にノートをとっている秋が、ノートに手をつけず先生に注意をされていたからだ。
そのほかにも、部活で部員達の汗を拭くタオルを忘れたり、誰かに声を掛けられても、まったく反応しなかったり等。
普段の秋と違う様子に他の者まで心配する始末だ。

「・・・ごめんなさい」
「謝らなくていいから、理由を教えてくれないか?」

豪炎寺のまっすぐな目に、秋は誤魔化しがきかないと思い、正直に話した。



「・・・そういうことか」
「うん。その会話を聞いてから、豪炎寺君は自分のどこが良かったのかなって思っちゃって・・・あの子達の言うとおりパッとしないのは自分でもよく分かっているの」
「いや、その子達も木野も分かってない」
「え?」

自分のことは自分がよく知っている筈なのに、そのことを豪炎寺に否定されて秋は驚く。

「木野は知らないだろうが、俺と木野が付き合うことを知った部員の大半は落ち込んでたぞ」
「えぇっ!?」

豪炎寺から初めて知らされた事実に、秋は先程より目を丸くしている。

「木野の魅力は、木野と深く関わった奴にしか分からないからな」
「・・・私の魅力?」
「あぁ、木野といるとなホッするんだ。木野の優しさとか気遣いとか。見守られてるって感じがする・・・悪い、上手く言えないが俺はそういうところに惹かれて木野を好きになったんだ」
「豪炎寺君/////」
「それに木野の魅力を知る奴は少ないほうがいいと俺は思っている」
「あっ」

秋にそう言いながら、豪炎寺は秋の手を握る。

「木野を手に入れても、油断は出来ないからな。ライバルは少ないほうがいい」
「・・・そうね。確かにライバルは少ないほうがいいわね。豪炎寺君のファンクラブもあるわけだし、私も豪炎寺君とられないように頑張らないと」

秋が笑顔を豪炎寺に向けると、豪炎寺は安心したように微笑む。

「やっと、いつもの木野に戻ったな」
「うん、ご迷惑おかけしました。お詫びになにかしたいんだけど。なにがいい?」
「じゃあ、これで」

豪炎寺は握っている秋の手を自分の方へ引く。
そして、豪炎寺は秋の唇に自分の唇を押し当てた。

「っ!?」
「これを木野からしてもらいたい」
「だ、ダメっ!い、今したから。もうダメっ//////」

二回目のキスを要求する豪炎寺に、秋は顔を真っ赤にする。
秋は気恥ずかしさから豪炎寺と目を合わせなかったが、繋がれた手はそのままに家路へとつくのであった。



END.
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