贈り物

□隣に並ぶから
1ページ/5ページ

※現実パロ


幼い頃の話だ…

『ママぁ〜っ、ヒクッ、どこぉ〜っ?』

あたしはお母さんとはぐれて
人が行き来する中を
一人泣いて歩いた夜の話
ちょうど、その日はクリスマスイブだったはずだ。

『ヒ、クッ、まっ、ママ〜っ』

コートと耳当て、手袋をちゃんとつけていても冬の夜空の下は
とても寒くて、
白い息を吐きながら
手袋をした両手で耳を温めた

『ママぁ〜っ』

周りは見て見ぬふり。
あたしはまだ世の中の冷たさというのを
知らなくて、一人惨めに歩き回った。

『ヒクッ、ヒクッ』

でも、子供一人で何が出来るのか?
あたしは、大きなイルミネーションで着飾られたツリーの下に座り泣いた。
誰かが助けてくれるとか期待して泣いたわけじゃない。
ただ、寂しくて泣いた。

「お前、泣いてんのか?」

そして、一筋の光が射したように誰かがあたしに声かけた。

『ヒクッ、おっ、にっヒクッ、ちゃん…っ』

子供ながらに心細かった時に声をかけてくれた彼は
まさにヒーローで、咄嗟に抱きついた。
一人ではないと安心したのだろう。
 
「うお…っ」

突然抱き着かれた彼は当然驚いただろうが、あたしはまだ子供だったから自分のことで精一杯だった。
今思えば彼もそうあたしと変わらない年齢だったはずなのに
やっぱり心の余裕…というのが違う。

『まっ、まっ…まみゃっ、ヒ、クッ、がっ』

安心しても
未だ泣くあたしは、しゃっくりをあげながらも必死に言葉を紡ごうとしていた。
そんなあたしを彼は優しく抱き締めた

「よーしよし。
大丈夫だから…。
ゆっくり話してみ?
なっ?」

背中を優しくさすられて
ママが良くしていてくれた事だから
安心したんだろう。
すぐにしゃっくりは止み、涙も流れなくなった。

『ま、まっ、が…っ、見つからないの…っ』
「つまりは迷子か?」

コクンッと頷いて、
あたしはギュッと彼の着ているコートの端を掴んで
不安気に彼を見つめた。
それに気付いたように彼はあたしと目線を同じにして言った

「大丈夫だ。オレがお前をぜってぇに
母ちゃんとこつれっててやっからなっ!」

【だから安心しろっ】
と彼は頭を撫でてくれて、
優しくはなかったけど、
すごく安心したのを覚えてる。

「んじゃ、行くかっ」
『うん…っ』

初めてお母さん以外と握った手はお母さんのよりは小さいのに少しあたしの手より小さくて、不思議だった。
それから彼は言葉通りお母さんとあたしを会わせてくれて
彼と別れなくてはいけなくなった

『い゛ぃ〜やぁ〜っ!!』
『いい加減にしなさいっ!ルーシィっ』

あたしは彼に抱き着いて離さない。
離してしまえば、もう会えない気がしたから…

『〜〜もうっ!
ごめんなさいね?』

今思えば、どんだけあたし彼に迷惑かけてんのかしら…?

「い、いえ…、別に…」
『そう…?
じゃあ、たぶんしばらくこの子離れないだろうから、何か飲み物買ってくるわね。
この子と会わせてくれたお礼もしたいしっ』
「あ、ありがとう…ございます…っ」

お母さんは近くの自販機に飲み物を買いに行き、あたしと彼二人だけになった

「なぁ?」
『いやっ
離れないっ!』
「…ハァ」

彼はまだ何も言っていないのに
あたしは断として【離れない】とだけ口にした。

「そんなに離れたくねぇのかよ…」
『……っ』

彼の手が頬に触れて
上を向かせられた。

『……っ!』

唇に柔らかな温もり…

「それ、やる。」

寒さのせいなのか、彼の顔はほんのり赤く、
そして…、

「また…っ、迷子になったら見つけてやるから…っ
だから…っ、目印にでも巻いてろ…っ」

首には彼が巻いていたマフラー…

「じゃあな…っ」

あたしは最後まで固まったままだった。
きっとあたしの初恋はこの瞬間で、
この先彼とは一度も会えていない


 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ