贈り物

□無くせない気持ちだってある。
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『あーたしぃのぉー!』

ダンッと音を立ててジョッキを置いた。

『なぁーにがっ、そんっりゃにっ!悪いぃいわけぇ〜?』
「お前なぁ……っ」

ズイッとグレイに詰め寄ると、眉間にシワを寄せ迷惑そうに顔をしかめる。

『ふーーっ!!!』
「お前は威嚇する猫か!!」

これ以上近付くなと頭を鷲掴みにされ抑えられる。

「たくっ、べろんべろんじゃねーか。」

グレイがそう言うと、じわじわ目尻に涙が浮かんできて…

『だああてぇーーっ!!!
ナツが…っ、ナツがあぁぁぁあああっ!!!』

『うわーんっ!』と机にうつ伏せて泣きわめく。

「……」

グレイもなんと声をかけてよいのか解らず、ただルーシィを見ることしか出来なかった。

『…う……っ、ヒクッ……う〜…っ』

瞳からは涙が溢れ、鼻先と頬が赤くなっている。 ルーシィの哀しみが一夜泣き腫らしても拭えていない事の現れだった。

「……っ」

グレイの瞳が一瞬哀しみに満ちたような気がした。だがそれも一瞬、次の瞬間にはルーシ ィの頭に手を伸ばし…

「泣いとけ。」
『…う…っ、クゥ…ッ』

流れに従うようにゆっくりと頭を撫でた。
 
「あいつは…」

言うか迷った末、グレイはゆっくり口を開いた。

「ナツは、もう帰って来ないかもしれないんだ。」
『ぇ……、なん…っ!』

顔を上げようとするルーシィの頭を少し強く抑えた。

「顔は上げるな。」
『グレイ……!!』

『なんでっ!』と問おうとするルーシィの言葉は、

「頼むから!!」

グレイの悲痛な叫びに遮られた。

「…っ顔は…、上げるな…っ」

ぽたり、小さな水溜まりがルーシィの視界の端に映った。

『グ…レ…』

空いている方の手で顔を覆っていて表情は読めないが、ルーシィにはグレイのそのさきの言葉がわかっていたのかもしれない。

「あいつは…、竜の謎を追う為に旅に出る。」
『……』
「…他の奴らは知らねぇ。」

不思議と涙は流れなかった。

「もしかしたら、また…アクロノギアみてぇな竜に出会うかもしれねぇ。でもあいつが“行く”って決めたんだ。」

ガタッ、と席を立つ音。

「だからオレは…止めねぇ。」

遠ざかる足音、バタンッと閉まる扉。

「バカ野郎が…っ」

扉の向こうなんて知るはずもなく、

『……』

あたしは呆然と机に伏せたまま、目線は外の向こう。

『…ナツ…。』
 
ナツとの時間は毎日が騒がしくて、休む暇もなくて…幸せだった。

『ナツ…ッ』

大好きだった。愛してた。誰よりも大好きで愛してる…。

『愛してる…、ナツ。』

ギュッと瞼を閉じた後、ゆっくり目を開く。それだけであたしの心は決まったんだ。
 
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