濡鴉ノ巫女
□いつかきっと
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「先生、お風呂わきましたよ。先に入ってください」
自室の机に向かい黙々と作業を進める先生に累は声をかけた。
「…ああ」
他愛もない返事。一度も振り向かず、聞こえてるのか聞こえていないのか。
「先生、聞いているんですか?先入らせていただきますよ?」
累は部屋の出入り口付近にあるソファに手を添えながら尋ねる。
先生のアシスタントとして働いている累だが、もうほぼ住み込みで先生の仕事のサポートだけでなく家事までしている。
累にはそれが嬉しくもあった。
「あー、じゃぁ今日は一緒に風呂でも入るか」
先生が伸びをしてくるっと振り向いた。
「えっ、いやいいですよあの…」
やっぱりこの人、どんだけ鈍いんだよ…一緒にひとつ屋根の下で暮らしてもう結構経つのに。
「ん、嫌か?あー…まぁおまえは筋肉とかなくてガリガリそうだもんな。鍛えて出直して来いよ」
先生は笑いながら言うと、累の肩にぽんっと手を置いて部屋から出て行った。
累はしばらく肩に手をあて、先生の手の余韻に浸っていた。