X-幼馴染の夫婦

□ずっと好きだったから
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テルパドールを目指した砂漠越えはつらかった。
灼熱の昼間と打って変わり、夜は凍えてしまうほどの寒さ。
不毛の大地の中、それでも愛する人と大切な仲間といたビアンカの心は不安に沈まずにすんだ。
プックルをはじめとする仲間たちはすやすやと眠りについている。
ビアンカはプックルの傍で毛布をかけていたが、やがて肩が小刻みに震えてしまっていた。
不安に包まれているわけではないけど、どこか心もとないような…寂しいような…。
そう思って肩をさすっていると、彼女が眠っていないことに気付いたリュカ。
彼は見張りの番をしていたため、唯一眠っていなかったのだ。

そっと優しく、静寂を殺さないようにビアンカに声をかける。

「おいで、ビアンカ。」
リュカはその逞しい腕を広げた。
「もうっ、いつからそんなキザになったのよ。リュカったら…。」
ビアンカはかああ、と頬を染める。
そうして戸惑いながら、ビアンカはとすっと彼の腕の中に飛び込みそして閉じ込められる。

「違うよ、君の前だとどうも、こういう僕になってしまうんだ。」

「そう?私と再会する前に誰かに教えてもらったんじゃないの?」
冗談めいて拗ねてみたが、実のところ不安だった。
もちろん、彼の壮絶な少年時代は知っている。
リュカに限って、女にだらしのないなんて到底ありえないし、そんな想像は彼に対して失礼でもある。
けれど逞しく成長したリュカはどの女性から見ても魅力的だろう。
自分だって、再会した彼に再び心底惚れてしまったのだから。
考えられる節は、囚われた大神殿から逃れた後、ヘンリーと旅していた頃である。
そんな長くはない間であっても、彼なら色恋沙汰の一つや二つ、あっても不思議ではない。
それだけに、ビアンカは見えない過去に不安を隠しきれなかった。

「僕はずっと、自分のこと不器用な奴なんだろうなって思ってたんだよ。」
「不器用ってより、リュカは真面目でお人好しさんよね。」
「はは、ピエールにも同じことを言われた。」
リュカはふわりと笑ったあと、ビアンカを抱きしめる腕を少しだけ強めた。
触れる肌が近づいた時、ビアンカの鼓動は速くなった。

「こうしてビアンカが戸惑っているのをみると、そうでもないのかな、なんて思ったりして。」
ビアンカはそれを聞いて、また「だから誰かに…」とまた良いそうになりながら、口をすぼめた。
何度も同じことを言って、嫌な女性だと思われたくない。
「君といて、新しい僕を知れたんだ。ありがとう、ビアンカ。」
もやもやとしていた気持ちがその一言で振り払われてしまった。
力強い調子のその言葉は、彼の本心の叫びだと感じてとれる。
「ううん、お礼を言いたいのはあたし。リュカが私を選んでくれなかったら、きっとこんな幻想的な夜だって、見ることはできなかったもの。ありがとうリュカ。」

二人は結ばれてから、何度お互いに感謝を伝えあっただろう。
それでも感謝の思いこそ、胸に絶えないものだから、常に伝えていたい。
二人はことあるごとに、素直な思いを、「好き」という感情と共にのせて届けていた。

「ねえリュカ。砂漠の夜がうんと寒くてよかったな、なんてあたし思っちゃうの。」

「どうしてだい?」

そっとリュカに身を委ねて安心しきった表情で、ビアンカは笑う。
リュカも幼子をあやすような優しい笑みで、ビアンカの金色の髪をそっと撫でていた。
「お昼みたいに暑かったら、こんなに近づけないわ。寒くて…それにね、みんな眠ってるから…その…」
段々と照れくさそうにごみょごみょと言葉を濁すビアンカ。自分からこの先を言うのは少し恥ずかしくなってしまったようだ。
リュカは内心騒がしくしながら、あえて平静を装った。
「そうだね、こうして遠慮なくビアンカに触れていられる。」
またぎゅっと抱きしめるリュカ。
「もう、本当に女の子の扱いが上手なんだから。嫉妬しちゃうわ。」
「誰に?」
リュカは少しだけ鋭い眼光でビアンカを見据えた。


いけない、先ほどあんなに素敵な言葉をもらったのにあたしったらまた…。


ビアンカがそう後悔している間も、リュカは真剣にビアンカを見つめた。
「君が僕の全ての初めての女性なのに、どうして。」

問い詰めるような言葉に、ビアンカは俯きそれでもリュカの胸板に顔を隠しながら言った。
「ごめんね、リュカが…あんまりにもかっこよくなっちゃったから。周りの女性が放っておかないと思ったの。それにリュカは優しいじゃない。だから…」

「僕がどう変わったとか、周りがどうとか、関係ないよ。僕は誰が好きなのか。この問いで答えは一つだろ?」
「…くらくらしちゃうくらい素敵な言葉をくれるのね。リュカは。」

「やめてくれよ、思ったこと言ってるだけなんだ。」
作った言葉みたいに言わないで、とリュカが眼差しで訴えてから二人は沈黙の中で見つめあった。


響くのは不毛な大地を撫ぜる風の音。
仲間たちの穏やかな寝息。

そして…愛しい人の息遣い。

二人はやがて互いの距離を無くしていくように近づきあった。

影は重なり、愛しい人の名前を囁き合う。

そうして砂漠の夜は、更けていく。

二人の旅は、まだ始まったばかり。
それでも今宵、二人はまた愛を確かめ合ったのだった。

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