悪魔と私。

□邂逅
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春の訪れを喜ぶかのように色とりどりの花びらが風に揺れて舞う
それはなんと美しく、そしてなんと自分に似合わぬ光景であろうか


街の外れにあるさびれた古いベンチ

キラーはそこでその長い脚を組みながら、港で配られていた観光客用に作られたらしい安っぽい紙を見た


「…“この街のどこからでも一望できる"マリア・ベル"には神から授けられた命が吹き込まれており、枯れることなく、一年中その姿を変えています”、か」


なるほど、と思いながらその文字欄から目を離し空を見上げる


サンサンと輝く太陽
それを囲むように広がる薄いブルー

そして少し目線を下げれば嫌でも目に入る大樹『マリア・ベル』
街の中央にどっしりと構えるその姿はまるで一種の芸術品のようだ

日々その姿を変える樹


確かに、その表現は合っているな


キラーはそう思い、地面にポツポツと落ちる花びらを見た

赤、ピンク、黄色、白、オレンジ

キラーがいる街の外れまで降り注ぐ色とりどりの花びら


一本の樹が生み出したとは思えない暖色系の花びらから考えると、…どうやら大樹様は大変ご機嫌がいいらしい



『マリア・ベル』はまるで人のような感情を持ち合わせている
その身から放たれる花びらがその証だ

そう記載されていた内容を思い出し、はてと首を傾げた


物資調達の際に仲間とよった店で、街の住人はあの樹をなんと呼んでいただろうか



「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」

「ひっ怯むな!かかれっ!!」

「ぅおおおおおおお!!」


キラーの思考は一際大きくなった声にかき消された

この街にはとてもじゃないが不釣り合いすぎる雄叫びや悲鳴、
そして銃声や刀のぶつかる音


時折こちらにまで飛んでくる刀や銃をひょいっと首を傾けることで避ける

そして、自らかかってくる同業者を片腕で凪ぎ払いその命を絶つ


…せめて俺を巻き込むな


そう遠い目で大樹を眺めていたキラーはしぶしぶ『マリア・ベル』よりもっと下、目の前に広がる地獄絵図に目を向けた

その無粋な音を発する馬鹿共が囲んでいるこの騒動の原因を見て思い出した


「………あぁ、確か」




己の能力を存分に発揮し、同業者をゴミのように蹴散らしていくその姿はまるで、悪魔




それと正反対の存在を別名として持つ大樹







「"天使"」







―――




***




「オイ、キッド」


先ほどの騒音が消え静けさが現れると、キラーはその重い腰をあげて騒ぎの中心だった場所に近づいた

こちらを振り向くその顔からすると、手応えの無い連中だったに違いない


燃えるような紅色をゴーグルで逆立たせ、そこから覗く鋭い眼光は機嫌の悪さを含んでいるせいか、いつもより鋭く見えた


「…なんだ」

「お前がどこで暴れようと構わない。だがせめて俺がいないときにしてくれ」

「ハッ、暇なら混ざりゃあよかったのによ」

「…この街の中でそんな気は起こらないんだがな」


キラーがため息混じりに答えるとキッドはククッと嘲笑をもらす
周りに広がる骸をチラリと一瞥したキラーはポツリと呟いた


「アロガント海賊団…」

「なんだ、そんな有名なのか?」

「いや、最近この街を拠点とし出した雑魚海賊団だ」

「だろうな、弱すぎだコイツら」



……こんな奴らでも海賊とはな



そう嘲るように呟いたキッドは近くにあった、つい数分前まで船長を務めていたであろう頭を蹴り飛ばす


そう、キッドの野望はこんなところで終わる骸とは違う
もっと大きく、そして気高いものだ
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