相思相愛には程遠く

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徳)『お前、俺の合宿場でマネージャーやらないか?』



そう言われたのは、彼がすでにその合宿場で猛練習している時だった。

月に数回交わされる電話のやり取りで突然彼から口火が切られた。

…U-17合宿場言えば、なんでも日本中の17歳以下男子の凄腕のテニスプレーヤーを集め、特訓させている超エリート養成所なんだとか。

特訓内容は一度カズ君に聞いたが、ものすごく厳しいらしい。

でも、確実にレベルアップ出来ると彼は言っていた。


『それは構わないけど、突然どうしたの?』


ふいに頭に気になる疑問が湧いたため、彼に訊ねる。

なぜ、自分がそのような所でマネージャーをさせようと話を持ちかけてきたのか。

聞かずにはいられなかった。


徳)『うちのコーチが女のマネージャーを必要としていてな…それで、マネージャー経験のあるお前の事をコーチに話したら呼んでくれと言われたからだ』


『は、はぁ…』



だいたいの内容は把握出来た。

確かに、私はカズ君が合宿場に行く前まで中学校で男子テニス部のマネージャーを一人務めていた。

マネージャーの仕事も分かるしやれない事はないが合宿場が合宿場ゆえに仕事の量も難易度も多くて高そうで平凡な私には無理なのではと不安になる。


『私なんかで大丈夫なの?』


徳)『大丈夫でなければ、コーチに話をしていない』


『さ…作用ですか』



さらりと言いのける彼から得体の知れない自信を感じた。

(カズ君、コーチさんに何て言ったんだろ)


徳)『で、来るのか?』


『え?』


徳)『さっきから聞いているだろう、合宿場に来るのか来ないのか』


『あ!えっとね…』



大事な事を思い出した私は慌てて考えた。

(マネージャーになれば、カズ君とまた会えるんだよね)

正直な所、久しぶりに彼に会える事を考えると何だか胸が躍る感覚に陥った。

男だらけの合宿場だと聞いて最初は躊躇いを隠せなかったが、彼に会えるのなら…


『分かった…私、マネージャーやらせていただきます』


なんていつの間にか答えてた。それを聞いたカズ君は、『そうか』と何だか安堵している様な声で電話越しで答えた。


徳)『じゃあ、今度の日曜日に迎えに行くからお前は支度していてくれ、いいな?』


『分かった』


徳)『どれ位になるか分からないから、それはまたこちらからメールする』


『はい』



行くと告げたら、後はカズ君のペースでとんとんと進んで私が『おやすみ、練習頑張ってね』と言う前に電話が切れてしまった。


『相変わらず、忙しい人』


クスリと苦笑するとパチンと携帯を閉じた。

(ま、そんな所が彼らしいんだけど)

机の上で頬杖をつく。


『早く会いたいな…』


"カズ君"最後に彼の名を呟くと頬が今まで以上に緩んだ気がした。

(今の私は、相当気持ち悪いだろうな…)

トクントクンと心臓の音が私の耳に心地よい音量で聞こえる。

この感情は"恋"なんかではなくて、何かを楽しみに眠れない子供のようなものだ。

カズ君の事は、大切な幼なじみでそれ以上には考えていない。

まぁ、当のカズ君は分からないけど…



母)『琴葉ー、ちょっと降りてきてくれない?』


『はーい、今行く!』



今日は、母にこの事を伝えて寝よう。

あ、でも眠れるかな?











わくわくが止まりません

(お母さん、あのね)
(そう言えば、昼間カズヤ君がいる合宿場の黒部さんて方があなたに自分に電話をくれるように電話くれたのよ)
(え!?何て?)
(マネージャーになって欲しいって言ってたわよ?あ、私がOKしといたから!)
((最初から拒否権なんてなかったようです…))
 

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