相思相愛には程遠く

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そして、彼から伝えられていた約束の日曜日―

カズ君は今日の午前10時に私の家の前に行くと言っていた。

(カズ君一人で来るのかな?)



今朝は日曜日なのに少し早く起きてしまった。

前々から楽しみにしていた"今日"がやっと来たから、興奮を抑えられなかった。

鼻歌を歌いながら、自分の高校の制服に着替える。

(初めてなのにジャージなんて失礼だよね)


母)『琴葉ー、さっさと朝ご飯食べちゃいなさい!』


下から母の声が聞こえて、いそいそと制服を着る。


『今日は日曜日なのに、学校行くみたいで変な感じ…』

ふっと笑って、リズム良く階段を駆け降りていく。


* * *

朝食を終えて、時計が午前9時を回った時だった。

確実に彼と会えるまでの時間が短くなっていくと同時に、私の心も同調するようにトクントクンと反応する。

準備万端で後はカズ君のメールを待つだけ。

ちらっと机の上にある携帯電話に目を向ければ、まだバイブ音がする様子はない。

(こう言う時って、一番憂鬱だよねぇ)


母)『口、開いてるわよ』


ふと、母の声で我に返ると机の上でコトリと何かが置かれた音がした。

目の前には、少し小さめのタッパーに何やら黄色いものが入っていた。


母)『それ、カズ君にあげなさい。お母さん特製のレモンの蜂蜜漬けだから!』


『あぁ、そう言えばカズ君てお母さんのレモンの蜂蜜漬け好きだったよね』



母特製のレモンの蜂蜜漬け…さっきも言ったけれどカズ君はこれが大好きだ(もちろん、私も大好きなんだけど)。

これは本当に美味しい。

いつも表情を崩さない彼にこれをあげるとぱぁっと目が輝きだすのだ。

(その顔がめちゃめちゃ可愛いなんて彼には死んでも言えないけど…)


母)『あと、これね』


母が私の目の前に差し出された一枚の小さな紙に目を落とす。


『これって…?』


母)『母特製のレモンの蜂蜜漬けの作り方よ。彼氏に作ってあげなさい』


『カ、カズ君は彼氏じゃありませんー。私の幼なじみだよ?』



母にとっての彼氏=カズ君だと分かった私は、母にそう反論してやる。

母は、『えー、そうなの?』とつまらなそうに顔を歪めた。

(と言うか、それ以前にカズ君はイケメンだから平凡な私と釣り合わないし)

なんてマイナス思考な事を考えてたら、ちょっとしょげた。


彼に恋愛感情は持ち合わせてはいないけど、昔からずっと一緒にいた者としてはなんだか彼が離れていってしまう様な感覚に陥った。

(でも、幼なじみとしては彼には幸せになってもらいたいんだけどね)

言ってる事が矛盾してるんだかしてないんだか…

無意識の内に口からため息がこぼれた。

その光景を見ていた母は、苦笑する。


母)『何を考えてるか知らないけど、笑顔で行きなさいよ。カズ君、琴葉の笑顔大好きなんだから…』


『…へ?』



カズ君の名前が出てきたと思ったら、母の口から信じられない言葉が出てきた。

私は一瞬、それが信じられなくて母に聞き返した。

(カズ君が私の笑顔が好き?)

心の中でもう一度繰り返す。

そんな事は初耳だった。


母)『あら、知らなかったの?…まぁ、そんな事本人には言えないか』


母は驚きを見せたと思ったら今度はニヤニヤと意味深な笑みを浮かべてこっちを見ていた。

な、なんかすごい気になる…

そう思って、口を開こうとした時だった。


電)『♪〜♪〜』


『!』



タイミングがいいのか悪いのか携帯のメールの受信音がそれを妨げた。

母に色々と聞きたい事はやまやまだが、今はメールが優先順位のため机の上の携帯を取る。

ピッとボタンを押すと、ディスプレイに文字が写し出された。

"もう少しで着くから、家の前で待っていろ"

絵文字も何もない彼らしい素っ気ないメールだった。

画面を見て、クスリと笑う。

今まで何度か彼のメールを見てきているのに、何故かそのメールは特別に感じた。

"もう少し"それが私を一層駆り立てる。

(もう少しで彼に会えるんだ)

自然と頬が緩む。


母)『なんだって?』


『ん〜?もう少しで着くから家の前で待ってろってさ』

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