相思相愛には程遠く

□2.
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クスクス笑いながら、私はちょっと昔の事を思い出していた。


徳)『どうでもいいんだが早く降りろ、黒部コーチを待たせている』


『はーい』


徳)『全く…』



私はいい返事をしてカズ君の大きな手を取った。

彼の手の温度が久しぶりのせいか妙に心地よかった。


(いつものカズ君だ)

さっきの出来事から吹っ切れたのかカズ君はいつものクールな彼に戻っていた。

私もそんな彼に安心したのか口元に自然と笑みを浮かべてた。


徳)『何をにやけている…おかしな奴だな』


『んー?カズ君と手を繋ぐの久しぶりだなって』


徳)『ま、まぁな』


『このまま手を繋いだまま行くの?』


徳)『冗談はよしてくれ』



そう言うと、カズ君は慌ててぱっと手を離して後ろを向いてしまった。

(カズ君、耳真っ赤…)


運)『それでは、私はこれで失礼します』


『ありがとうございました』



ペコッと運転手さんに頭を下げると、『お気をつけて』の一言の後に車は走っていった。

車が小さくなるのを見届けると私はまたくるりと反転して、カズ君を見た。


『さぁ、カズ君行こうか!』


徳)『おい、先に行くな。お前の事だから、迷子になるぞ』


『大丈夫!考えがあるから』


徳)『考え?』



カズ君は不思議そうに眉をひそめていると、私はニヤニヤしながら彼の隣に歩み寄り彼の大きな左手を私の右手がためらいがちにそっと握った。


徳)『なっ!?』


突然の私の行動に驚いたのか、カズ君はまた顔を一気に赤くした。

熱がカズ君の大きな左手から私の右手に伝わってきた。


『…こうすれば迷わないかなって思ってさ』


なんて口実を作って彼に微笑んでみせた。


…本当は、またカズ君の温もりを感じたかった。

小さい頃は、いつも手を繋いで彼がいつも練習しているテニスコートに歩いていった。

カズ君は私の話をコートに着くまで優しく微笑みながら聞いていてくれていた。

…それをさっき、ふと思い出していた。


私達は成長して離れてしまって、そんな事はすでに淡い思い出になっていた。

だからこそ、離れてしまっていた分私はいつの間にかその温もりを求めていた。

(ちょっと、わがままかな?)


『ごめん、嫌だよね』


訳も分からず胸が苦しくなって、私は彼の左手から右手を離そうとした。


でも、それはあっけなく阻止された―

カズ君は私が離す前にスタスタと歩み出していた。

しかも、私の手をしっかりと握り返していた。

私は彼の行動に困惑してしまった。


『カっカズ君!?』


徳)『なんだ?』


『その…嫌じゃないの?』


徳)『…お前が、迷子になるよりはましだ』



彼のいつものクールな返答の裏に私は彼なりの不器用な優しさを感じた。

(あ、なんか泣きそう…)

昔の懐かしくて温かな思い出が蘇った気がして、涙腺が熱くなった。


『カズ君、ありがとう』


徳)『合宿場までだからな』


『うんっ!』



私は元気よく返事をすると彼の左手をきゅっと強く握った。














想い出と共に…


私はカズ君が幼なじみでとっても幸せです。
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