姫王
□1.
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『うわぁっ!だだ大丈夫ですか!?』
急いで制服のスカートのポケットからハンカチを取り出す。
その男の人の汚れを取ろうとしたら、その人はスクッと立ち上がった。
?)『はぁ……』
『あ、あの?』
私は、起こられるのではないかと思ったらその人から出てきたのは重いため息だった。
驚いて彼を見上げる。
?)『おい、大丈夫か?』
『え?いやいや!私なんかよりあなたの方が』
私よりずっと重症の彼から労いの言葉を聞いて私は、慌てて立ち上がる。
?)『オレがスピード出しすぎたわ、ワリ』
『わっ私の方こそ、不注意でごめんなさい』
?)『あーいいって』
事情は知らないが、とてもローテンションな彼は地面に置きっぱなしだったスケートボードを拾い片足をその上に乗せた。
?)『じゃーなー』
『あっ待ってください!』
?)『どわあっ!?なっ何だよ今度はっ!』
彼がスケボーで帰ろうとした時に、私はぐいっと彼の腕を引っ張った。
さすがにこれには彼も怒った。
でも、私はぶつかってしまった者としてはそのままにしたくなかったのだ。
『急にごめんなさい…ちょっと失礼します』
?)『は?って、おいっ!?』
顔が真っ赤になる彼に気も止めず、私は彼の頭からビニール袋を取り、持っていたハンカチを顔を拭いた。
彼の顔についた黄身を全て拭き取る。
?)『ち、近ェ!もう少し離れろ!』
『待ってください!もう少しですから』
?)『〜〜っ!好きにしろ!』
『ありがとうございます』
拭き終わると、彼はぱっと私から離れた。
まだちょっと顔から赤みが引いていなかった。
?)『ったく…』
『さて、卵を買いに行きましょうか』
?)『っておい!何勝手に話進めてんだ!』
『へ?卵買わないのですか?』
?)『や、買うけどよ…』
『最後に、私に卵を買わせてくれませんか?』
?)『いやいや、さすがにそりゃ悪いだろ』
『いえ、ぶつかってお詫びに買わせてください』
?)『で、でもなぁ…』
男1)『うっうぅ…』
『!(あの人達の意識が戻り始めたんだ)』
今までぐっすり眠っていた彼らの事はすっかり私の頭の中から消えていた。
(や、やばい…)
?)『…今、誰かの呻き声が聞こえなかったか?』
『わーっ!わーっ!きき気のせいですよ、行きましょう!』
?)『あだだっ!だから、急に引っ張るなってのー!』
私は、ビルの隙間を覗こうとしていた彼をそこから引き剥がす様に腕を引っ張ってそこから逃げだした。
* * *
な、なにはともあれ…そこから逃げ出した私達は無事卵を買い終わりその辺りをふらふらしていた。
その時に、私は彼とたくさん話した。
彼の名前は"八田美咲"さんで、今日は草薙さんと言う人にお使いを頼まれて…までは、良かったらしいのだが帰り道にめちゃめちゃ!嫌いなヤツに遭って、めちゃめちゃ!疲れた時に運悪く私にぶつかり今に至る。
ご、ごめんなさい…
美)『卵ありがとな、赫夜』
『お礼なんていいですよ』
私達はお互い呼び捨てにする程、仲良くなっていた。
空はすっかり晴れていて、朱紫色に染まっていた。
美)『もうこんな時間か…お前家はどこだ?送っていってやるよ』
『あ、あの〜えっと…』
"私は御神楽家の者です"なんて言ったら、きっと気を遣わせるだろうなと思い、慌てて口実を考える。
(どうしよう…)
美)『うわー、こりゃ酷ぇ火事だな』
『え、火事?』
突然美咲さんが、違う事を言い出したお陰で我に返る。
美)『ほら、あそこのでっけーテレビに』
美咲さんが指さす方向に目を向けると、鎮目町の大きな横断歩道の向こう側のビルに大きなディスプレイが速報を流していたのに目が止まった。
それを見た瞬間、私は目を見開き背筋が凍りつくのを感じたー
"速報です!あの名家の御神楽家から火が上がっています。
火の規模が大きく、消防隊も悪戦苦闘しているもよう。
その上、中には六代目当主である御神楽隆幸氏、息子である和治氏とその妻の小雪氏が中にいる様で消防隊員も救出に向かっています。
二人の娘である赫夜氏は葦中学園高等学校から帰宅していないとの事です"
心臓が違う生き物の様に激しく動き出す。
『う、そ……』
美)『今赫夜って…まさか!』
事情を知った彼はばっと私の方を向いた。
私は、すでにパニック状態で何が何だか分からずどうしていいかも分からずへたりと地面に座り込む。
全ての音や声が聞こえなくなり、周りが真っ暗に見えた。
感じたのは、底なしの絶望感と焦燥と頬を伝う生温い涙、背中を伝う嫌な冷や汗。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう…
頭の中はそれだけで何も考えられない。
その時、私を呼ぶ声がした。
美)『来い、赫夜!』
闇から現れた様にその温かな手は私の腕をしっかり掴んで引っ張りあげた。
そして、気がつけば私達は美咲さんのスケボーの上に乗っていた。
美)『しっかりしろ!ほら、手ェ回して捕まってろ離すな!』
『え、あ…』
たんたんと彼のペースに呑まれるように彼は掴んだ私の手を自分の腰の辺りに回させた。