刹那の恋人

□貴方が好きです
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『こんにちは!』


出)『お、名無しちゃん。いらっしゃい』


ぎぃと重い音を立てて開いた大きな木の扉。

そこには、柔らかな笑みを浮かべた草薙さんが、優しく私を迎え入れてくれた。


出)『外、寒かったやろ?今ホットミルク作るからそこ座り』


『わぁっ!草薙さん、ありがとうございます!』


私は、たたっと草薙さんの前の空いている席に座った。

相変わらず、元気やなぁと草薙さんはそう私に言うと後ろの方でカチャカチャとホットミルクの用意を始めた。




(もうすぐ、クリスマスか…)

外は、すでに雪が降っていて真っ白な世界は私にクリスマスを連想させる。

街行く人々は年に一度の大行事の用意で大忙しにもなる時。

同時に、恋人達が二人きりで過ごすのがお決まりと言う日でもある。

学校でも、友達に聞けば『私、今年は彼氏と過ごすんだ!』 なんて話を聞いたり。


彼氏…か。

年頃の女の子にとっては憧れの存在。

お互いに想いを通じ合って初めて成立する素敵でどこか不思議な関係。

私くらいの子達は誰だって興味を持って、作りたいなんて思うんじゃないかな。

正直、私もそんな彼氏に憧れを抱いている一人。

彼氏がね…と言って花が咲いたように笑って楽しそうな友達を見ると羨ましくなる。



出)『そう言えばもう少しで、クリスマスやなー』


『へ?』


草薙さんの呟く様な声に夢から覚める様に我に返る。

目の前のテーブルにこと…と置かれたのは、草薙さん特製のホットミルク。

甘くて暖かな湯気が立ち込めてそれだけでとろけそうになる。


出)『冷める内にはよう飲み』


『ありがとうございます…いただきます』


こくんと一口飲めば、ホットミルクの優しい甘さが広がって心まで温かくなる気がした。

こんな心まで温かくなる飲み物を作れる草薙さんって魔法使いみたいって思った。


『おいしい…おいしいです』


出)『そりゃ、良かったわ。そんな可愛ええ顔して飲んでくれるんならこっちも作り甲斐があるってもんや』


優しい笑顔なのに、男性の色気を感じるそれに不意にぴくりと心臓が跳ねた。

それを悟られない様に私は、また慌ててホットミルクを飲む。

周りを見てみれば、いつも賑やかな八田さん達がいなくて私と草薙さんの二人だけだった。

それを意識すると、また心拍数が少しだけ早くなった。

(ど、どうしたんだろ?)

こういう状況のせいなのか、妙に緊張する。


ちらと、草薙さんを見るとカウンターに肘をつき目を細めて私を見ている彼の姿があった。

目が合うと、さっと私は草薙さんから目を逸らしてしまった。

(なんでこんなにたどたどしくなるんだろ…)

いつも草薙さんとは、普通に話しているのに急に胸が苦しくなってよく分からなくなる。

ひょっとして、私は草薙さんが…



出)『どうかしたん?』


『は、え!いや…八田さんとかがいないなぁって』


出)『なんや名無しちゃんて八田ちゃんの事好きなん?』


『いえ違います!』
出)『じゃあ、自分誰か他に好きな人おるん?』


そう聞かれた時、また大きく心臓が跳ねた。


『いっいません…』


あぁ、なんでもっと強く言えなかったんだろう。

しかも、詰まった様な答え方になってるし…

かぁとみるみる内に顔が赤く熱くなっていき、ばつが悪くなって縮こまる。


出)『ぷっ、おもろい奴っちゃなぁ…いるってバレバレやん』


『わっ笑わないでください!』


ククッと含み笑いをする彼に私はばんばんと机を叩いて、反抗した。


出)『いやいや堪忍な…ははっ、俺はそんな名無しちゃんだから惚れたんやな…』


『…………へ?』


い、今…彼の口からとんでもない言葉が聞こえた気が。

思わず拍子抜けした声を上げて聞き返していた。


出)『今の聞いとらんかったんか?しゃーないな…』


『…っふわわっ!?』


急にぐいと草薙さんの手が私の肩にかけられたと思ったら、焦る私を他所に草薙さんは私を彼と近づかせた。

…今、彼の顔は私の左耳の真横で間近にある。

そんな状況だけで逃げたい衝動に駆られたが、右肩を掴まれているため逃げるのは許してもらえないようだ…


『あっあの!』


出)『耳、真っ赤…やん。ほんま可愛えぇ』


『んぅ…っ!』


絡み付くような声音と吐息が耳にかかって、思考が停止どころかショート寸前で顔の赤さも最高潮。

心臓も違う生き物の様動いて止まらない。


出)『もういっぺん言うから、よう聞き…お前が好きや、お前が欲しい…名無しは?』


その彼の一言に完全に私は、捕らえられてしまった。

あぁ、私この人が…草薙さん好きなんだ。

ばくばくと動く心臓を抑えて、ゆっくりと口を開いた。







『…わ、わたしは…っ』













貴方が好きです


彼にそう言ったら、耳元でクスリと掠れた声が聞こえた。






(なぁ、鎌本…俺らいつまでここにいたらいいわけ?……っぶぇくしっ!)
(さっさささぁ?)







………………………

ちょっと、意味不な草薙さん甘夢でごめんなさい…

お読みいただきありがとうございました!
 

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