第121話〜
□第121話
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昨日虚さんから電話をもらったときは驚いた。
『美晴さんが記憶喪失になりました。明日からあなたの通う学校に転入させるそうです』
いきなりそんな説明されて、はいそうですかと簡単に受け入れられるわけがない。
何度も何度も説明してもらい、それでも混乱していた俺は一夏に確認をとった。
電話に出た一夏は、俺が今までに聞いたことが無いくらいの辛そうな声でその話を肯定した。
『……それは事実なんだ、弾。あいつはIS学園に入る少し前からのこと全てを忘れてる』
「あの彼女達のこともか?」
『あぁ……。顔を見るなり、誰ですか? って言ったよ……』
あんなに仲良さそうにして、俺に紹介してくれたのに……。
「ところで何で俺なんだ?」
『俺は学園に居なきゃいけないし、千冬姉も常に家に居るわけにもいかない。美晴を一人きりにするのは極力避けたいから、信用が出来る奴に協力してもらいたいって千冬姉が言ったんだ』
千冬さんが俺のことをそんな風に評価してくれているとはな。
「俺もあいつの親友だ。いくらでも助けてやるさ」
『よろしくな』
記憶喪失、ね。親友に久し振りに会うと思ったらこんなことになってるなんてな。
でも俺に頼まれたんだ、全力を尽くそう。
俺が通っている高校は共学だ。男子は普通に。女子はISの適性が高くなかった人が入学してくる。
女尊男卑の考えを持ってる奴とそうでない奴、両方居る。
持っていても、そんなにこちらが不快感を持つほどでもない。多分その考えがより強いのは、ISが出来て数年の間に社会に出た人だろう。
その頃はちょうど女性に対しての優遇措置が整備され始め、世界的に女性の立場がグッと上がった。そんなときに社会に出た若い人達はそれが自分達の中で基準になっているんだろう。男もかなり卑屈だ。
だが俺達の年代だと比較的その思想は落ち着いて、尊重とまでは言わないが、横柄な態度を取る奴はあまり見ない。
自分の友人がIS学園に入学してると自慢することはあるが、それを勘違いして自分もすごいと言えば完全に悲しい奴扱いだ。
適正が低いからここにいるんだし。
「おはようございます、皆さん」
担任が入ってきて朝の挨拶をする。
来るか。
「今日はまず転校生の紹介をします。どうぞ」
美晴がドアを開けて入ってきて、先生の横に立つ。
「織斑美晴です。皆さんよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げた。
そしてすぐに顔を上げて、
「弾君。お久し振り」
にっこり笑顔で顔の横で小さく手を振る。
無意識なんだろうな、それ。普通男はそんな可愛く手は振らないもんだ。
「何だ弾。お前の彼女か?」